五十嵐太郎『日本建築入門』を読む

 五十嵐太郎『日本建築入門』(ちくま新書)を読む。副題が「近代と伝統」、全体を10の章に分け、「オリンピック」「万博」「屋根」「メタボリズム」「民衆」「岡本太郎」「原爆」「戦争」「皇居・宮殿」「国会議事堂」と、不思議な見出しでくくっている。
 「オリンピック」と言っても、丹下健三の代々木国立屋内総合競技場ばかりでなく、戦前の1940年の日本でのオリンピック計画から取り上げている。
 「万博」では大阪万博丹下健三の大屋根と岡本太郎太陽の塔が語られるほか、やはり戦前からの世界各地の万博で建てられた日本館の建築について紹介されている。1873年のウィーン万博での日本館は鳥居、神社、神楽殿、日本庭園がつくられた。その後のフィラデルフィアやパリ、セントルイスの万博では寄棟の屋根、法隆寺金堂に則る建物や、金閣という喫茶店、これらは屋根が目立つ日本建築だ。ようやく1937年のパリ万博で坂倉準三がモダニズムのデザインによる日本館をつくった。1992年のセビリア万博では安藤忠雄のみごとな日本館の写真が掲載されている。2000年のハノーバー万博の坂茂の日本館も世界的な評価を獲得したとある。しかし、「その後の日本館は、環境性能を前面に押し出す一方、建築的なデザインとしてはあまり注目されなくなった」と書く。愛・地球博長久手日本館は「ばらばらのサンプルを並べたショーケースの建築で、デザインとしての統一性がない」と厳しい。瀬戸日本館も「言い訳建築のようだ」と。
 「屋根」の項目はおもしろい。戦前に登場した鉄筋コンクリート造の駆体の上に和風の屋根を即物的にのせた帝冠様式。五十嵐はこの様式から映画『ザ・フライ』を思い出すという。ハエが科学者の身体と合体するというアメリカ映画だ。帝冠様式としては東京国立博物館が紹介されている。
 「メタボリズム」では、黒川紀章埼玉県立近代美術館が挙げられている。ときどき行っているが埼玉県美がそうだったのか。槙文彦の代官山ヒルサイドテラスもここに分類される。
 「民衆」の章で、有楽町の駅前に建てられた村野藤吾の読売会館・そごう百貨店を、雑誌『新建築』で取り上げた川添登編集長と編集者全員が解雇されたそごう事件が載っている。誌面での取り上げ方を雑誌の社主が問題視したのだという。私も経験があるが、オーナーというのはしばしば無教養な人間が多いのだ。早川書房の初代社長を思い出す。ミステリを中心に発行部数を伸ばしていたとき、うちでもそろそろ世界文学全集が出せないかと宣ったという。
 岡本太郎に1章が与えられているのも興味深い。こんな調子で最後までおもしろく日本建築を語っている。いままで何冊か読んできたが、五十嵐太郎の著書はいつも当たりだった。


日本建築入門 (ちくま新書)

日本建築入門 (ちくま新書)