中村宏インタビュー『応答せよ!絵画者』を読む

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砂川五番

 中村宏インタビュー『応答せよ!絵画者』(白順社)を読む。2010年から2019年まで、外国人研究者らの6回のインタビューに中村宏が答えたものを編集している。インタビューは英語でなされ、それを嶋田美子がインタビューアー兼通訳としてまとめている。

 中村は実に率直に自分の作品について解説している。

 1950年代に問題にしていたのはリアリズムだった。ただヨーロッパで言う自然主義リアリズムはやめよう、クールベのようなリアリズムは古いから。画壇の日本風表現主義フォーヴィスム)は切ろう、抽象画はルポルタージュに合わないからだめ。それで花田清輝岡本太郎アヴァンギャルドって言い出した。彼らは社会主義リアリズムと抽象画と二つの頭で新しいことを考えると提言した。岡本太郎はシュルリアリズム的な要素と抽象的な要素二つが一つの場面に入っている。それを岡本は対極主義と言っていた。でも岡本太郎のような絵を描く気にはならない。

 そこで花田清輝が示した絵は桂ゆきだった。「あれを模範にせよ」、あれが最高だと、アヴァンギャルドを絵にするとこれだって。でもこの前の大回顧展(2013年、東京都現代美術館)を見たけど、かなりオーソドックスにみえてしまった。その時代の象徴だから、その象徴がなくなると普通になってしまう。

 我々の中ではメキシコ絵画にものすごく影響を受けた。メキシコ絵画展(1955年、東京国立博物館)という展覧会があり、リベラ、シケイロス、オロスコの作品が来た。

 「砂川五番」の絵で、坊さんを小さくしたのは二つ理由がある。一つはパース上の理由で、この位置を引っ込ませる視覚上、遠のかせるために無理に不自然にした。もう一つは、宗教画にあるが、遠近法(単に遠くは小さい、近くは大きい)だけに頼らない遠近感を感じさせる。というのは、これは一種の、視覚性ともうひとつ、ストーリー性から来る距離法(心理的遠近法)ではないかと思った。

 「階段にて」の便器はモチーフがあって、聖徳記念絵画館の手洗いに行って、地下に降りていったら、ずらっと一列に並んだ男子用便器が、ピカピカに磨いた直後で真っ白に光っている。金具は真鍮で金色に光っている。あ、これだ! って。

 中村が一番重視したのはモンタージュを最大限に利用することだった。絵だから事実上動かないから、反復、リフレーンを使う。構成と時間性と、モチーフはそのための手段みたいになってきた。モンタージュを絵の上でやって、「静止した映画」というイメージが自分には一番合っていると思った。

 一つ目の少女は、内乱から喚起されるイメージ、奇人変人、グロテスクなもの、セーラー服は制服で、軍服のような画一化するイメージもあった。一つ目なんて一種の寓意で、内乱期みたいなものを喚起するイメージを繋げて、少女とか、怪物とかいうものにかこつけて、一種の騒然とした雰囲気を作りたい、群像を造りたいと思った。

 美学校に関わったことも詳しく語られている。その中村独特のカリキュラムが興味深い。モナリザの白黒写真を小さく複製して、生徒に一枚ずつ配って鉛筆1本で模写させる。2Hの鉛筆の芯を2センチくらい削って、モナリザの向って左目だけを原寸でフリーハンドで目測だけで描かせる。その次に右目、鼻、口、最後に輪郭を取りなさいというやり方。紙も描きにくいケント紙を設定した。そうしたら、例外なくみんなうまかった。

 本書は中村宏を理解するための必読書だと思う。本文中にカラー図版が多く、それは4色刷りになってしまうので、どうしてもコストがかかり、ために定価が3,600円+税と高価になってしまっている。しかし重要な資料になっていると思う。