ギャラリー58の中村宏展を見る

 東京銀座のギャラリー58で中村宏展「戦争記憶絵図」が開かれている(6月3日まで)。中村は1932年静岡県浜松市生まれ、日本大学芸術学部美術学科に学ぶ。現在90歳になる。初めルポルタージュ絵画という社会的な絵画を描く。弱冠23歳で絵画史に残る砂川基地闘争を描いた傑作「砂川五番」を描いている。それはリアリズムとは異なり、シュールレアリズムの傾向を帯びていた。さらにモンタージュの技法を取り入れ、列車や飛行機、女学生などを組み合わせた不思議な画面を作っていく。

 ギャラリーのホームページから、

 

1945年、基地や軍需工場が集中していたために甚大な被害を受けた浜松で、中村宏は敗戦を迎えます。当時12歳だった中村は、毎日のように繰り返される爆撃の恐怖に晒され、浜松大空襲で赤く炎上する街をただ震えながら見ていたと言います。中村の戦争体験は、武装して戦場で闘う兵士とは違い、ただ逃げることしかできない、命を守る戦いでした。

中村は戦後ルポルタージュ絵画の第一人者として、絵画表現を通して社会と向き合い、砂川基地闘争の現場を描いた「砂川五番」や、太平洋戦争末期の沖縄戦の悲劇を主題にした「島」、ジラード事件を告発した「基地」などを1950年代に発表してきましたが、これまで自身の戦争体験を描いたことはありませんでした。

敗戦から78年のいま、中村少年が目撃した戦争をルポルタージュ絵画として描き、世に問いかけます。本展では新作「空襲 1945」「機銃掃射 1945」「艦砲射撃 1945」と空襲の記憶を描いたドローイングを発表します。

中村は女学校創始者の家に生まれ、学校の敷地内に住んでいたので、セーラー服の女学生は日常の風景でした。中村は長年にわたって、冷たく暗い表情をしたセーラー服の少女たちを描いてきました。その理由についてこれまであまり語ってきませんでしたが、このたびの個展を目前にして「戦時下に軍需工場で働く女学生や、空襲で逃げる子供たちの、恐怖や絶望、怒りの表情を思い出しながら描写したものだ」と告白しています。中村の作品には、どこか暗く不穏な気配が漂っています。その根底には戦争体験があり、「これまで私が描いてきた作品は、全て戦争画とも言える」と語っています。

 

「空襲1945」

「機銃掃射1945」

「艦砲射撃1945」


 繰り返すが、中村はわずか23歳で戦後絵画史に残る「砂川五番」を描いている。山下菊二の「あけぼの村物語」と併せてルポルタージュ絵画の双璧だろう。その中村の初めての戦争画だという。見逃すべきではないだろう。

 なお、会場には戦争中に中村が拾ったと言う当時の米軍の機銃の弾丸と薬莢が展示されている、弾丸は直径10ミリくらいもあり、これに当たったら体は千切れるのではないかと思った。

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中村宏展「戦争記憶絵図」

2023年5月16日(火)-6月3日(土)

12:00―19:00(土曜日は17:00まで)日曜休廊

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ギャラリー58

東京都中央区銀座4-4-12 琉映ビル4F

電話03-3561-9177

http://www.gallery-58.com