片山杜秀『尊皇攘夷』を読む

 片山杜秀尊皇攘夷』(新潮選書)を読む。副題が「水戸学の四百年」、480頁近い大著だ。ページ数が多いのは、明治維新を用意した尊王攘夷について、水戸光圀から始めて丁寧に描いていることと、雑誌『新潮45』および『新潮』に連載したためで、『新潮45』の読者に合わせて、エピソードをたっぷり盛り込んでいるためだろう。月刊誌なので、先月号に書いたことをまた再録したり、必要以上に嚙み砕いて書いている印象がある。だが、それだけに尊王攘夷についてよく理解できたと思う。

 「水戸学四百年」と副題にあるように、専ら水戸藩の動向に焦点を合わせて記述しているので、長州や薩摩の動きについては水戸に関連する程度に簡単に済ませている。それにしても水戸黄門こと水戸光圀の『大日本史』編纂事業が、水戸藩を巻き込んで幕末まで大きな影響を及ぼし、結果として倒幕から明治維新を準備したことになり、またひいては太平洋戦争まで影響を及ぼしたことは、光圀の思惑から遙かな所まで届いたことだと感嘆する。

 幕末の天狗党事件の悲惨さも胸を突く。三島由紀夫の曾祖母の兄は水戸藩支藩、宍戸藩の藩主松平頼徳だが、天狗党および反天狗党たる諸生党を鎮撫すべく水戸藩主の名代として水戸へ入るが、複雑な政治情勢から徳川幕府側から攻撃され、最後に切腹させられる。切腹したが、「頭を垂れて長く苦しんだというから、まともな介錯を伴わなかったのであろう」と片山は書く。三島由紀夫はそのことを、可愛がってくれた祖母から聞かされ続けたのだろう。それがあれほどまでに切腹に拘泥した三島の性癖を作ったのではないかと、思いがけないことを教わった。

 私は若いころ明治維新関係をよみふけっていたことがあったが、天狗党についてはほとんど知らなかった。それが水戸藩内部の激しい内戦で、敵対する相手の女子供など家族も巻き込んで殺戮しあったという。そのことは深い傷を双方に残したことだろう。