東京国立近代美術館で菱田春草展を見る


 東京国立近代美術館菱田春草展が開かれている(11月3日まで)。菱田春草といえば、横山大観と並んで近代日本画のビッグネームだ。平日に行ったが、さすがに大勢の観客が入っている。NKHの日曜美術館で紹介されれば、うじゃうじゃだろう。日本画は分かりやすいし、とくに菱田春草は穏やかな作風できれいなのだ。
 代表作の「落葉」が展示されている。「黒き猫」は10月15日から11月3日の限定公開とかで見られなかったが。
 菱田春草について、会田誠が『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』(幻冬舎)という人を食った題名の本で絶賛している。

 僕は菱田春草の画集を見るのが好きです(僕が持っているのはポケット版ですが)。まず前半にえんえんと続く、朦朧体などの描法の変遷、および古今東西に亘る画題の変遷……。なんという試行錯誤の連続、〈近代日本美術〉の産みの苦しみでしょう。そしてその暗中模索の果てに辿り着く、あの『落葉』の清澄な境地……。僕はここでいつもアドレナリンが分泌されるのを感じます。「すべてを諦めきった後に残った、たった一つのかけがえのない充実……」。僕の頭にはこんな直感的な言葉が浮かびます。ここにはもはや日本や東洋の上っ面だけの美化や荘厳化はなく、しかし西洋への不自然な追従もありません。「これはほとんど日本の、明治の、あの社会システムの〈良心〉が絵になったような絵じゃないか……」。そんな言葉がふと口をついて出ます。明らかにこの時初めて〈日本画〉がこの世に誕生しました。そして盟友横山大観を含めて、この後誰がこの『落葉』を超ええたでしょう。だから僕の最も乱暴な日本画論はこうなります−−日本画は『落葉』に始まり、『落葉』に終わった−−。ページをめくるとアンコールの小曲『黒き猫』があり、その悲しい調べを残して突然幕が下がります。ああ、これは一体なんて画集なんだろう!

 「日本画は『落葉』に始まり、『落葉』に終わった」と。菱田春草の「落葉」は確かに見飽きることがなく、見事な作品だと思う。ただ、これが日本画の最高峰なら、日本画という山脈はさして高いものだとは言えないだろう。会田の言うとおり、春草のあとにどんな日本画家が出現したのだろうか。
 展示作品の所蔵元を見ていくと、わが故郷飯田市美術博物館のものが数点あった。少しだけ誇らしさを感じたが、春草の出身地ということで美術館を作り、作品の収集に努めたが、出発点で出遅れてしまったので、代表作を取り逃がしてしまったのは仕方がない。
 展覧会の後半に展示される「黒き猫」を見に行こうか、どうしようか。「黒き猫」のためだけに当日券1,400円はちょっと高いなあ。
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菱田春草
2014年9月3日(火・祝)―11月3日(月・祝)月曜休館
10:00―17:00(金曜日20時まで)
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東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3−1
http://shunso2014.jp/