DIC川村記念美術館、日本画の名品売却

 朝日新聞が、佐倉市のDIC川村記念美術館が所蔵する日本画の名品を売却することを決めたと報じている。

 長谷川等伯横山大観の傑作、全て売却へ DIC美術館
 印象派現代アートなど約1千点の幅広いコレクションで知られるDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)が、安土桃山時代の絵師・長谷川等伯作の国の重要文化財を含む日本画の名品を、すべて譲渡(売却)する方針を決めたことが15日、わかった。同館は「新たな収集方針の策定に伴うもの」と説明している。
 同館の日本画作品は、等伯尾形光琳の近世絵画、横山大観上村松園らの近代日本画など約20点ある。いずれも名品ぞろいで来館者の人気も高かったが、昨年12月に公開を終了。今後、国内の美術館や博物館、個人に全点を譲渡する。
 これらの作品の中で最も貴重とされているのが、国の重文に指定されている等伯の「烏鷺(うろ)図屛風(びょうぶ)」だ。縦約150センチ、横約350センチの左右一つの屛風は、左の黒い烏(からす)と右の白い鷺(さぎ)の対照が見事な晩年期の傑作で、同館最初の所蔵作品だった。

 これは一昨年だったかのバーネット・ニューマンの「アンナの光」売却に続く第2弾だ。このDIC川村記念美術館は元大日本インキと言ったDICの事業部門で、独立した法人ではないはずだ。
 もう30年以上前、川村記念美術館学芸員の話を聞いたことがある。美術館はよくある財団法人とかいう形態ではなく、大日本インキの一事業部門だと。なぜですかと問うと、会社が困ったときに美術品を売却できるようにと。
 大日本インキの初代社長が日本の古美術を集め、その息子である2代目社長が印象派などを集め、孫にあたる3代目社長がアメリカの現代美術を集めたようだ。ステラのコレクションでは世界1を誇り、ほかにマーク・ロスコの部屋を作っている。一昨年売却してしまったが、抽象表現主義の巨匠バーネット・ニューマンの代表作「アンナの光」もコレクションしていた。日本ではあまり人気がないが、ニューマンはアメリカでは抽象表現主義のトップの画家だ。その代表作だからどんなに評価が高いかわかるだろう。
 ところがDICでは1999年に2代目と3代目が相次いで亡くなってしまった。インキ事業では日本のトップだった大日本インキも、IT化の影響で徐々に業績が悪化しているのではないか。さて、高額の美術品を会社の経費で落としていただろうから、おそらく歴代の社長は困ったときには売ればいいと言っていたのだろう。それは株主や従業員へのいい訳だったのだろうが。社長たちは売却する来ななかったに違いない。好きで買い集めたコレクションなのだから。しかし創業家が経営陣から姿を消せば、後継の経営者たち――社員から出世したり、銀行などからやってきた――にとっては、コレクションへの思い入れはないだろう。創業家の社長たちも言っていたではないか、困ったときには売ればいいと。
 それが「アンナの光」や日本画の名品を売却する真相なのではないか。いや、これは私の推測であって、確証があるわけではないが。