赤瀬川原平「個人美術館の愉しみ」(光文社新書)がおもしろかった。類書の少なくない分野だが、それらのガイドブックとは、ブタと真珠、猫と小判ほども違う。芥川賞を受賞した人だから文章がうまい。本業が美術家だから絵に対する見どころが違う。東海道新幹線のグリーン車に備え付けてある「ひととき」に連載したものだという。
個人美術館とは、「一人の作家だけの美術館と、一人のコレクターによる美術館の二通りの意味がある」として、どちらかに当てはまるものを取り上げている。
島根県の足立美術館は大観を中心に集めているが、庭園がすばらしく「アメリカ人の目で見た日本庭園第1位」なんだそうだ。行ってみたいという気になる。
愛知県小牧市のメナード美術館はメナード化粧品の創業者野々宮大介と美寿子夫人が中心となって収集した。
絵画の展示室に入る。最初の2,3点目でいきなり長谷川利行の絵が飛び込んできて、びっくりした。初めて見るものだけど、明らかに長谷川利行だ。でも絵の図柄が何を描いているのか、さっぱりわからない。パレット代りの空白のキャンバスに、ただ絵具のついた筆をなすりつけた感じだけど、その絵具の質と筆の暴れ具合が紛れもなく長谷川利行なので、驚いた。こんな作品があったのか。具象的な形は何もなく、ほとんど抽象絵画だ。絵画というより反故にされたキャンバス、といった方が当っている。これをよくコレクションしたものだと感心する。(中略)
この1点で、コレクションの確かさを感じた。
館内を進むと、抽象絵画の多いのが特徴だとわかってきた。さらに進むと日本美術の長谷川等伯や尾形光琳もあり、長沢蘆雪があるのにも嬉しくなったが、描写から抽象への抜け穴となったダダの時代の、シュヴィッタースやマン・レイのオブジェ類が、リメイクのものが交じるとはいえコレクションされているのに目を見張った。
つづくウォーホールの辺りはまだ具象的な引掛りが懐しいが、抽象絵画のラインハート、ステラ、ニューマン、ロスコとなるにつれ、作品が巨大化し、つるりとした色面だけが広がり、具象的な手がかりが何もなくなり、アートという概念だけがどこまでもふくらむ。
それを見ていて、マネー経済、という言葉を思い出した。
さりげなく何とも厳しい言葉が挿入される。
こんな調子で全国45の美術館が紹介される。楽しい読書だった。
- 作者: 赤瀬川原平
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2011/10/18
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