「わの会」展が始まった、そして前田哲明展も

 神奈川県の平塚市美術館で「サラリーマンコレクターの知られざる名品 わの会」展が開かれている(2016年2月7日まで)。美術館のホームページより。

 平塚市美術館では、「サラリーマンコレクターの知られざる名品 わの会」展を開催いたします。
 この展覧会は、美術品コレクターの集まりである「わの会」会員の秘蔵のコレクションを公立美術館で初めて公開するものです。
 「わの会」にはサラリーマンをはじめ、公務員、医師など様々な職種の会員がいます。会員は皆、本業の傍ら熱心に美術品を蒐集し、研究し、愉しんでいます。彼らの共通点は、情熱と愛情をもって美術
品を蒐集していることです。この情熱と愛情を共通の理念とし、会員間で情報の交換、作品を発表しコレクションのさらなる充実に努めています。
 そのコレクションは決して派手なものではありません。しかし、一点一点、いぶし銀の魅力を放ち、美術館のコレクションとはまた違った魅力を持っています。思いもかけぬ、名品、珍品、いつの間にか忘れられた画家の傑作、有名画家の隠れた一面を示す作品等々、まさにコレクターの情熱と愛情によって発掘された作品ばかりです。
 今回の展覧会では、「わの会」会員の秘蔵のコレクションのなかから、これぞ、という自慢の作品約150点を厳選し、コレクターのコメントと併せて展示します。
 普段、美術館で展示する作品とはひと味もふた味も違うサラリーマンコレクターの思いの詰まった珠玉のコレクションをお楽しみ下さい。



 この「わの会」とは、そのホームページによると、

NPO法人あーと・わの会(通称 わの会)ご紹介
「わの会」は、主に美術コレクターとわたくし美術館の共同作業により、美術品の公開、美術品の有効活用、埋もれた美術品の発掘顕彰に関する推進とその支援事業を行い、美術普及の実現に寄与することを目的としています。

 現在会員数71名、今回その会員が持ち寄った150点の作品が平塚市美術館に展示されている。タイトルにもあるようにサラリーマンたちの作る会で、とりわけ大作や作家の代表作が並んでいるわけではない。時代的にも現代美術というよりは近代美術、それも日本近代美術が多い。ある意味きわめて雑多な作品群だ。著名な作家の作品もあるがほとんど無名の作家のものも並んでいる。
 雑多な作品群だと書いた。通常美術館の企画展ではある時代を区切ったり(戦後日本美術とか)、あるグループを取り上げたり(具体美術協会展とか、池袋モンパルナスとか)、明確なコンセプトが掲げられている。本展のそれはサラリーマンたちのコレクション展なのだ。それは大義のあるコンセプトではないだろう。するとどういうことになるのか。
 ある種の狭く片寄った美術運動に囚われた展示を離れ、美術を愛好する一般の人たちが蒐集した作品というきわめてユニークな視点から集められた作品が並ぶことになる。これが十分意義があることは、ハワイ大学の物理学者、故渡辺慧が「分類は客観的なものではなく、人間の主観的なものに基礎をおく」と言っている(『認識とパタン』、岩波新書)。
 具体的な作品を見てみると、菅野圭介、桂ゆき、竹久夢二、里見勝蔵、鳥海青児、瑛九、松本俊介、中沢弘光、中村正義、山下菊二、林倭衛、長谷川利行小山田二郎、駒井哲郎、田渕安一などが並んでいる。なかでも中村正義「建築中の家」は丸山治郎が出品したものだが、この丸山とは仮の名前で、本当は著名な現代美術研究者のことなのだ。現在「藤田嗣治伝」を執筆中と聞くが、その早い出版を多くの美術関係者が待ち望んでいる。
 また会員の福田豊万は山本弘の「赤鬼」を出品している。福田の書いた解説を引用し、山本弘の「赤鬼」を掲載する。

画家「山本弘」に〈泣き顔の鬼の絵かけて春隣り〉


 私は立春が近づく頃になるとこの山本弘の絵を掛けるのが数年来の習いになっており、去年はほとんど1年中、我家の狭い壁面を占領していました。
 強烈な印象を残して世を去ったこの画家の心の中に住んでいたのであろうこの鬼は、よくみるとなぜか心弱そうで、自分の醜い姿に泣き出しそうな顔をしてこちらを見つめているのです。この鬼は又、誰の心の中にでも住んでいる鬼を描いているようで、私の心の中にも居る鬼と兄弟の様に思えるのです。
 この絵は激しい筆使いにもかかわらず、見つめていると画中に引き込まれるような静寂観を漂わせていて画家が自分の心の中を深く見つめている思いが伝わってきます。この絵は山本弘の代表作の一つであると思います。私はもっと山本弘の事を知りたいと思いますし、皆様にも知って頂きたいと願っております。


 また平塚市美術館では、ロビー展として「前田哲明の彫刻−Recent Workー」を2016年4月10日まで行っている。前田哲明の彫刻展はこのブログでも2回ほど紹介しているが、見応えのある優れた彫刻だ。前田の大きな鉄の彫刻が天上の高いロビーに所を得たように設置されている。


ギャラリー21yo-jの前田哲明展がすばらしい(2014年11月14日)

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「サラリーマンコレクターの知られざる名品 わの会」展
2015年12月5日〜2016年2月7日


「前田哲明の彫刻−Recent Workー」
2015年12月5日〜2016年4月10日
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平塚市美術館
神奈川県平塚市西八幡1-3-3
9:30〜17:00(入場は16:30まで)毎週月曜日休館
電話0463-35-2111
http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/