『BRUTUS』の会田誠が選んだ「日本の絵100」が良い

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 『BRUTUS』の会田誠が選んだ「死ぬまでにこの目で見たい日本の絵100」がとても良い。その選択はともかく、選んだ絵に添えた会田の解説が興味深い。

 

黒田清輝「智・情・意」
鹿児島の人には悪いけど、僕は黒田は褒めません。薩摩藩士の子だから法律学びにフランス留学、途中で美術に鞍替えでしょ。印象派がアカデミーで腐ったようなのを学んだのは、まあ他に選択肢はなかったかもだけどさ。晩年のゴッホと出会えよ、とは言わないけどさ。構想画云々も含めて、真面目で責任感あったとは思うよ。だから洋画界の礎作りを任された。でもね、魂の深いところで絵描きじゃなかったと思う。ただノー・ミスをめざしただけの、官僚みたいな絵。そういう男がしょっぱな洋画を率いたという、この国の不孝。

 

 徳岡神泉「芋図」
戦中のこの作品の延長線上に、戦後の《苅田》とか《流れ》とか《仔鹿》といった代表作が続きます。それらのボワ~としたマチエールの、ほとんど抽象画に近づいたものを見ると、「マーク・ロスコを知っていたのかな」と思って、思わず制作年を照らし合わせたくなりますが……たぶん影響関係はないでしょう。ロスコと神泉、国際的知名度では雲泥の差があり、まるで別々の考えで絵を描いていただろうけど、何も哲学書読んで悩んでたロスコの方に一方的に軍配が上がるってもんでもないと思いますよ。

 

 川端龍子「草の実」
明かに古い比喩ですけど、龍子ってゴン中山が呼ばれてた「スーパーサブ」って感じですね。三浦カズ横山大観ってことになるでしょうけど。大観も一目置く在野の巨人。
近所の無価値な雑草を、金という価値ある画材で描いて、しかも御仏の慈悲心も絡めるって、かなりコンセプチュアル。しかしそこに留まらず、ススキなどを長いストロークで、もちろん一発で描く技術、度胸よ。漢(おとこ)!って感じです。

 

 速水御舟「炎舞」
御舟はすごいね、超優等生。画風はオールマイティ、御舟の画風の変遷に近代日本画のすべてが入っているかのような。でもテクニシャン特有の厭味や驕りは感じられない、なんか謙虚さがある。そしてここぞというマスターピース《炎舞》や《名樹散椿》を作る時は、まるでフィギュアスケートで完璧な演技をして満点を叩き出す、みたいなことをやらかす。40歳腸チフスで死去、か。36歳で死んだ春草といい、男だけど「美人薄明」って言葉が浮かんじゃう日本画家が続きますな。

 

 尾形光琳
光琳は妙な人ですね。世界史上屈指の才能ある部分と、大したことない部分が同居している。よく言われる通り天才的デザイナーであって、あんまり画家ではなかった。だから本物を見ても絵画としてのアウラがあまりなくて「あれ?」ということがある。あの時代なのに不思議にも、複製向きのアイキャッチ性。呉服屋のボンボンでセンスだけ身につけた遊び人が、途中から始める画業だからか。叩き上げ絵師の没入がない代わりのクールさでしょうか。
ところで、明治のある時期まで宗達光琳の陰に隠れてあまり有名じゃなかったという、にわかには信じがたい情報を今回得ました。「派」って強いのね、恐ろしや。

 

 いや、会田誠の文章、好きです。私はファン。

 

 

BRUTUS(ブルータス) 2019年2月15日号 No.886[死ぬまでにこの目で見たい日本の絵100]