名越健郎『独裁者プーチン』を読んで

 名越健郎『独裁者プーチン』(文春新書)を読む。ロシア大統領プーチンを論じている。袖の惹句を引く。

大統領に復帰し、さらなる絶対的権力者となったプーチン。貧しい労働者階級からKGB中佐を経て頂点の座に上り詰めた軌跡を追うとともに、バラマキ政治を展開し、派手なパフォーマンス、水戸黄門ばりのテレビ対話など、日本では知られていない「黒い皇帝」の素顔に迫る。

 発行が2年ほどまえで、多少古くなった点もないわけではないが、十分プーチンの本質を伝えているように思う。
 上記にもあるようにプーチンKGBつまりスパイ組織の出身だ。そして自分の周囲にKGB出身者や昔の同僚、部下を集め、狭い仲間うちだけで政権を固めている。そのことを名越は、「組織の仲間しか信頼せず、外部の者には常に警戒心で臨むKGBスパイ特有のメンタリティーが働いているにちがいない」と書いている。プーチンKGB時代の同僚で、しがないスパイだった仲間は、いまはロシア銀行の最大株主だったり、ロシア銀行第3の株主でブイボルグ造船の共同経営者など、スーパーリッチになっている。ロシアの汚職は社会の隅々に広がり、年間賄賂は推定でGDPの30%だという。
 プーチンは政敵を追い詰め、有罪にして長い懲役刑を科した。また、それを恐れて外国へ亡命した者たちも少なからずいた。
 名越の書くことはほとんど信じがたいほどのスキャンダルだ。現代の先進国のなかに、ここまで独裁的な大統領が本当にいるのだろうか。でもウクライナ情勢を見ていると、まんざらオーバーでもないように思えてしまう。
 名越は東京外国語大学ロシア語科卒業で、時事通信社に入社しモスクワ支局長を経験している。語学に強く、ロシア政治ウォッチャーの第一人者と履歴に紹介されている。



独裁者プーチン (文春新書 861)

独裁者プーチン (文春新書 861)