佐野洋子『そうはいかない』を読む

 佐野洋子『そうはいかない』(小学館文庫)を読む。「解説」で江國香織が書いている。

 母と息子、母親と私、見栄っぱりの女友だち、離婚した美女、イタリアの女たらし、ニューヨークの日本人夫婦、舅姑を看取った逞しい中年女たち。自らの周りにいる愛すべき変人奇人がいっぱい。

 33の短篇・エッセイと中篇が1つ。33も収録されているということは皆短い作品だ。短いのにそれぞれが強烈な印象を与えるのは、登場人物が濃〜いからだ。おそらく半ば以上に佐野の周りにいる知人を写しているのだろう。佐野本人も知人のかたちで書き留められているに違いない。そんなことを思うのは、以前佐野洋子の『シズコさん』(新潮社)を読んでいるからだ。シズコさんは佐野洋子の母親の名前だ。強烈な個性を持った母親だった。そのことを書いている。だが、佐野洋子はその強烈な母親に堪えたのだ。それは半端な経験ではなかったはずだ。それができただけに、佐野の個性が尋常ではなかったと想像できる。『100万回生きたねこ』の単なる絵本作家なんかではなかったのだ。
 私の周囲には、本書に登場するような付き合いにくい人間はいない。なぜ佐野の周囲には存在したのか。佐野がそれらの人を許容したからだろう。佐野の懐の大きさが想像できる。
 『シズコさん』のエピソードを一つ紹介する。シズコさんには重度の知恵遅れの弟妹(シゲちゃんとキミちゃん)がいたが、実家に残ったもう一人の妹(著者の叔母)が二人の面倒を見ていた。シズコさんは障害者である弟妹に一切関知しようとしなかった。

 母が六十代の終わり頃だったか、私がまたシゲちゃんとキミちゃんの事を持ち出した事があった。「母さん、別に恥ずかしい事でもないじゃない。家族にそういう人が居る家たくさんあるよ。大江健三郎見てごらんよ」間髪をいれず母が叫んだ。「あれは商売でしょう」私はぎょっとした。

「シズコさん」の知恵遅れの弟妹(2008年7月4日)


そうはいかない (小学館文庫)

そうはいかない (小学館文庫)

シズコさん (新潮文庫)

シズコさん (新潮文庫)