浜田浄個展を見て

 東京銀座のギャラリー枝香庵と東京京橋のギャラリー川船で浜田浄個展が開かれている(9月10日or13日まで)。浜田は1937年高知県生まれ。1961年に多摩美術大学絵画科を卒業している。先月末、このブログで『浜田浄作品集II』を紹介し、そこにもう少し詳しい浜田の紹介を書いている。
 2つのギャラリーで個展が開かれているが、川船では「1982〜1985の鉛筆による大作[DRAWING]」が展示され、枝香庵では「合板による最新作」が並べられている。その最新作は、合板に絵具を塗り重ね、それを彫刻刀などで彫り=削り、その凹面に絵具を塗り、彫られていない凸面に別の色の絵具を塗っている。画面は木版画の版木のような凹凸で構成されている。一見ミニマル・アートを思わせるが、画面は無機的ではなく、表情を持っている。だが中心はなく均質な画面が広がっている。



 川船の鉛筆ドローイングは、ただ画面が鉛筆で塗りこめられているように見える。しかし筆触(というのか)は見えない。画廊が作ったパンフレットによると、普通の鉛筆を使って、短いストロークで線を描き、それをほとんど無限に繰り返し重ねて鉛筆の面を作っているという。表裏に描きこんだ作品もある。すると、鉛筆のドローイングが鉛筆の面を作り、それは鉛筆で作られた物質に昇華しているように思える。いわゆる弁証法でいう量から質への変化が起こっている。そのように言うと概念的な作品にみえるかもしれないが、作品自体としてきわめて美しい。見事な出来栄えだ。




 浜田の作品に通底しているものは何なのだろう。合板を彫って浅いレリーフのような表面を作ったり、鉛筆のドローイングで黒鉛の板みたいなものを作っている。どちらも平面作品だが、立体に近づいているともいえる。あるいは浜田は、平面という2次元空間を物質化しているのではないだろうか。本来、平面=2次元空間は物質ではない。絵画は平面上でイリュージョンを作ることなのだ。浜田の仕事は、その原則を破り、平面を物質化しているのだとも見ることができる。平面を物質化したというと、森田茂や花澤洋太を思い浮かべる人がいるかもしれない。浜田の仕事は森田らとは全く違う。森田らの厚塗りは素朴な方法であり、それと同列に論じることはできない。
 浜田の作品の意味を分析すると、私にはそのような結論を出したくなる。しかし、それは作品の意味に過ぎない。作品自体と向き合ったとき、ことに鉛筆ドローイングの美しさは言いようもない。こんな言い方はオーバーに聞こえるかもしれないが、私は「奇跡のような」と言いたいくらいだ。世界で誰もやっていない仕事で、確実に美術史に残るだろう。
 ぜひ2つの会場へ足を運んで、浜田の優れた達成を見てほしい。


『浜田浄 作品集II』が発行された(2014年8月30日)
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浜田浄個展
2014年9月1日(月)〜9月10日(水):ギャラリー枝香庵
11:30-19:00(初日・日曜・最終日のみ17:00まで)
2014年9月1日(月)〜9月13日(土):ギャラリー川船
11;00-19:00(日曜・祭日休廊)
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ギャラリー枝香庵
東京都中央区銀座3-3-12銀座ビルディング8階
電話050-3452-8627
http://echo-ann.jp
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ギャラリー川船
東京都中央区京橋3-3-4フジビルB1
電話03-3245-8600
http://www.kawafune.jp/