広瀬正のタイムマシン小説『マイナス・ゼロ』を読む

 誰かが広瀬正SF小説『マイナス・ゼロ』をタイムマシンを描いたものとして絶賛していたので読んでみた。文庫本で500ページを超えている大作だ。裏表紙の惹句に「早世の天才が遺したタイムトラベル小説の金字塔」とある。結構面白く読むことができた。よくできたSF小説だと思う。タイムマシンを大道具として使って、飽きさせない物語を作っている。タイムマシン小説を楽しみたいと考えたら十分成功しているだろう。私は何をぐだぐだと奥歯に物の挟まったような言い方をしているのか。
 タイムマシンというものが存在したら世界観が変わるだろう。既存の哲学が見直されなければならないだろう。宇宙論が変わるだろう。そういう根源的な絶対的なモノなのだ。タイムマシンを導入したときに、単に面白い物語、それを可能にする大枠にとどめるのが不満なのだ。世界の見方を根本的に変える視点を導入してほしい。
 スタニスワフ・レムだったら、そのようなSFを書いてくれただろう。SFなんて楽しめばいいだけじゃんと言うのなら、それは私の好みとは決定的に違うのだ。そういう好みがあることを否定するのではないが、ただ、それだったらスペース・オペラとたいして違わないのじゃないか。スペース・オペラを読むのは時間の無駄だと思っているものだから、つい過激な批判をしてしまった。
 私も初めてSFを読んだのはE. R. バローズの『火星のプリンセス』だった。高校生のときだった。その後、ハインラインやA. C. クラーク、フレドリック・ブラウンブラッドベリ等々を読んで、もうスペース・オペラは手に取らなくなった。



マイナス・ゼロ (集英社文庫)

マイナス・ゼロ (集英社文庫)