河合隼雄『河合隼雄自伝』を読む

 河合隼雄河合隼雄自伝』(新潮文庫)を読む。ユング派心理学者、箱庭療法の第一人者河合隼雄の自伝。自伝ではあるが、河合が執筆したのではなく、河合が勝手気ままに半生について話したものを編集者がまとめている。「ぼくのいちばん最初の記憶についてお話ししましょう」と始めているが、このように話し言葉なので、最初はなんだかかったるく思えてしまった。しかし、さすがに河合の自伝だけあって、臨床心理学への傾倒からフルブライト留学生の試験に受かってアメリカへの留学、そこで出会ったシュピーゲルマンとクロッパーからユングの心理学を学び、二人の推薦で特別奨学金を得てスイスのユング研究所で学ぶことになる。さらに箱庭療法を知り、それを帰国してから独自に発展させる。
 それらを具体的な体験をからめて紹介している。河合の自伝がそのまま日本でのユング派心理学の受容の歴史になっているという見事さ。
 スイスでは日本語を勉強したいという人の教師をしたことがあった。それが舞踏家のニジンスキーの未亡人だった。彼女は日本で宝塚少女歌劇を見たら、亡き夫にそっくりの人物が舞台で踊っている。それでそのA.T.という女優に惚れこんで、次に日本へ行ったとき彼女に日本語で話しかけたいと日本語を学ぼうと思ったのだった。ニジンスキーは同性愛者だったので、宝塚少女歌劇のに両性具有的なものを感じたのではないかと河合は推測する。
 ニジンスキーが精神を病んだのを最初に気づいたのは雇っていた召使だった。召使が言うには、「ご主人は絶対に精神の病を病んでおられます」と言う。自分が前に仕えていた旦那と言動が同じ感じがするという。前の旦那というのを訊くと、ニーチェという人だった。
 また、ヴァン・デル・ポストの『影の獄にて』を読んで感動したことも書かれている。「電車に乗っているあいだも読んでいて、涙が出てきて困りました」と言う。現在は『戦場のメリークリスマス』と改題され、映画化されている。
 おもしろい読書だった。ぜひ読まれることをお勧めする。


河合隼雄自伝: 未来への記憶 (新潮文庫)

河合隼雄自伝: 未来への記憶 (新潮文庫)