吉本隆明講演集を読む

 『吉本隆明〈未収録〉講演集〈10〉 詩はどこまできたか』(筑摩書房)を読む。題名に未収録とあるように、1957年から2009年までの過去単行本に収録されることのなかった詩に関する12篇の講演を集めている。録音テープが途中切れてしまったらしく一部中断しているものも2篇ある。52年間にわたるので、当然ニュアンスも変わっている。吉本は頭の良い人だったせいか、講演原稿を作らないでぶっつけで話したらしい。それで吉本にしてはもたついたところや繰り返しなども目立つ。難解な講演も少なくない。
 なかで面白かったのは、1990年に中京大学文学部で歌人集団・中の会10周年記念における「詩的な喩の問題」と題された講演だ。聴衆に合わせて、短歌に即して喩を分析している。
 もう一つ、1977年の京都精華短期大学での「戦後詩における修辞論」がとくに面白かった。喩すなわち直喩、暗喩、無定形な喩について、「現在、もっとも優秀な詩人ともっとも優秀な作詞家の作品」を取り上げて語っている。直喩で取り上げられたのが鮎川信夫の詩と作詞家のイルカの「片思いの少女へ」、そして田村隆一の詩と岩谷時子の「君といつまでも」、谷川雁小椋佳の「シクラメンのかほり」などなど。この小椋佳については、しばしばちぐはぐな直喩を使う人ですが、ここにあげているのはみなすぐれた人ですよとも言っている。暗喩では田村隆一荒井由美の「あの日にかえりたい」、ユーミンの「光る風、草の波間」をかなりすぐれた暗喩だ、もう少し本格的に言葉の勉強をすると現代詩のほうへ入れますよと言っている。
 とても参考になる講演だと思う。繰り返し読んで勉強したいと思った。