『舟を編む』を見て読む

 三浦しをん舟を編む』(光文社)を読む。3年前のベストセラーだ。これを原作にした映画をテレビで放映したのを録画しておいて見た。監督が石井裕也日本アカデミー賞を受賞している。映画がとても良かったので、原作はどうだったのか知りたくて読んでみた。どちらも甲乙つけがたいくらい良かった。最後のシーンでは胸が詰まった。
 映画は原作をほとんど忠実になぞっている。主演の松田龍平が良かったし、宮崎あおいも適役だった。原作との大きな違いは、松田龍平宮崎あおいにラブレターを出し、それを読んだ宮崎の反応のシーンだった。映画では松田に手紙の言葉を復唱させ「好きです」と言わせて、私もと応じている。小説では宮崎が眠っている松田の蒲団の上に乗り、その夜二人が結ばれたことになっている。これは圧倒的に小説の方が優れている。この後の宮崎の存在は映画では薄いままだ。
 辞書を作るという設定でこれだけドラマティックに描いているのは作者の手柄だろう。もともと地味な話のはずだから。と言いながら、15年の辞書作りの歳月にしてはエピソードが少なすぎるのではないか。様々な葛藤があって然るべきではなかったか。
 いや、それをすべて書くのは無理だろう。15年の歴史、ドラマをこんなにコンパクトにまとめた三浦しをんの腕に頭を下げよう。映画も小説も佳作だと思う。
 ところで完成した辞書『大渡海』のモデルは何という辞書だったのだろう。ネットで調べたら三省堂の『大辞林』らしいことを知った。発売初年度で100万部を売ったという。定価8,000円としたら、売上げ80億円、取次に正味70で入れれば三省堂の売上げは56億円になる。他事ながら目出度いことだ。


舟を編む

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