山本弘の作品解説(44)「暗い海」


 山本弘「暗い海」油彩、F12号(60.6cm×50.0cm)
 1968年4月制作。この作品については記憶がある。描き上げた直後、山本さんが話してくれた。テレビのニュースで漁場を取り上げられた漁民のことが報じられていた。もうなぜ取り上げられたのかは忘れてしまったけれど、その漁民の顔を描いたという。
 取り上げられ、自分の海ではなくなった黒い海を背景に男の横顔が描かれている。開いた口は怒りではなく悲しみを表しているかのようだ。
 鼻の形にピカソキュビスムの影響を見て取ることができる。
 当時山本弘37歳。この頃からだったか、具象的な傾向から徐々に離れていった。そして40代前半ころから亡くなるまで10年足らずの豊穣の時代が始まる。しかしそれはアル中がますますひどくなることと同時だった。30代はじめに脳血栓を患ったが、43歳で再び再発する。手足はますます不自由になり、反比例して作品は完成度を増していった。山本弘最良の作品は、この2度目の脳血栓を患ったあとから生まれているのではないか。


(小生所有)