山本弘の作品解説(110)「ばら」

山本弘「ばら」、油彩、F8号(45.5cm×37.8cm)

 

 1966年5月制作、山本34歳のときの作品。やや初期に属する。裏面に名刺が貼付されていて、¥16,000とあるから16,000円で販売したらしい。現在の貨幣価値では5倍として8万円になる。

 晩年の作品と違って分かりやすい綺麗なバラを描いている。一方、花の部分のみを厚塗りするのは、当時から採用していた技法だったのだ。フォートリエの影響が見られることになる。

 おそらくすでにこの頃第1回目の脳血栓を患ったあとで、手足の不自由が始まっていただろう。

 色彩も素直に綺麗な色を使っていて、これなら売るのに苦労はしなかっただろうと思われる。

 この直前に愛子さんと結婚したのではないか。裏面の名刺は「上郷村高松」の住所が一部手書きで訂正されて「上郷村下黒田77」となっている。結婚を機にお父さんと同居していた住所から、6畳一間のアパートに移ったのだろう。この下黒田77のアパートは、その後娘が生まれるまで5年間住んでいた。私も通ったのだった。