梅野記念絵画館の山本弘展のちらし



 東御市梅野記念絵画館での山本弘展「All is vanity. 虚無と孤独の画家――山本弘の芸術」のちらしが届いた。会期は2023年9月9日(土)―11月26日(日)のほぼ2カ月半という長期間。そのちらしから、

信州飯田で生涯の大半を過ごし、51歳で自死した異色画家、山本弘を紹介します。

山本弘は、多感な十代を軍国主義から民主化へ急激に移行する戦中、戦後混乱期に過ごし、価値観が逆転した社会のなかで純粋な精神を傷つけられたのか、この頃から自殺を試みるようになります。

長野県展の前身である全信州美術展に17歳で入選するなど、地元ではその実力を知られていましたが、過度の飲酒によりアルコール中毒となり、入退院を繰り返した後に縊死しました。

晩年、アルコールの過剰摂取が原因で脳血栓となり手足が不自由になった山本弘は、絵具を混ぜずにパレットナイフで描くようになり、作品は奔放なタッチと色彩の美しさが際立ち、強い魅力を放っています。

没後、美術評論家針生一郎に見い出され、広く国内に知られるようになったこの画家の、公立美術館での単独の回顧展としては初めての開催となります。

鑑賞者の眼を意識した絵が氾濫する昨今の美術界のなかで、他者を意識せず自分のためだけに描いたこの作家の孤高の美しさを感じていただければと思います。

 

タイトルの「All is vanity.」は山本弘がしばしば口にした言葉だった。旧約聖書の「伝道者の書」にある言葉で、「Vanity of vanity, all is vanity.」、日本語訳では「空の空 空の空なる哉 すべて空なり」とも訳され、また「虚無の虚無 虚無の虚無なる哉 すべて虚無なり」とも訳される。私も何度も山本の口から聞いている。

1961年軽井沢で働いていた31歳の山本が、酔って突然宿の壁に大きく「Vanity of vanity, all is vanity.」と書いて泣き出したと、当時一緒に働いていた遠山望さんが話してくれた。

 酔っぱらって、脳血栓の後遺症のもつれた舌で「空の空 空の空なる哉 すべて空なり」と叫んでいた山本さんを切なく思い出す。

 

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「All is vanity. 虚無と孤独の画家――山本弘の芸術」

2023年9月9日(土)―11月26日(日)

9:30-17:00(最終入場16:30まで)月曜日休館(祝日の場合は翌火曜日休館)

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東御市梅野記念絵画館

長野県東御市八重原935-1 芸術むら公園

電話0268-61-6161

https://www.umenokinen.com/