大人の会話

 これが大人の言葉だと思ったことが何度かある。その一つ。私が二十歳前後の頃、わが師山本弘を訪ねて富山市からその友人福井A男さんという画家がやってきた。飯田市で福井さんの個展があったのだ。福井さんは自由美術の会員、豪放な方でスポーツカーを乗り回し、飯田市富山市間の最短走行時間の記録を持っているという。もう40年近くも昔のことだ。
 夜、飲み屋で福井さん、山本夫妻、私などがカウンターに並んだ。その時福井さんが山本夫人に、弘はスケベなことをするかと尋ねた。夫人がするにと答えると、どんなことをするんだ、体中を舐めるのかと聞いた。
 これは驚いた。大人ってこんな会話をするのかって思った。ちなみに夫人の答は、そんなことはしんけど、だったと思う。弘さんは黙ってにやにやしていた。
 もう一つ。私は結婚して5年後に長女を得た。その時カミさんの伯母が私に聞いた。Mさん、避妊してたの? はいと答えたが、大人はこんなことを聞いてもいいのだと新鮮だった。もっとも伯母は産婦人科病院の院長夫人でもあったけど。