行きつけの画廊へ行った時、先客がいて画廊主と話していた。一緒に座って客の彼女の話を聞いた。今日、娘に子供が生まれたという。孫は女の子だと実に嬉しそうに話した。
画廊を出て地下鉄に乗ると、偶然にも先に画廊から帰っていった彼女と隣り合わせた。そこでさっきの話の続きを少しした。その時の気持ちは彼女に対して好ましいものだった。すでに見知らぬ人でなく、そして女性だったからではないか。孫の話をしたし、見かけからは若くても60歳前後だろう(私より15歳は年上だった)。彼女への感情を考えたとき、それはエロスではないかと思えた。微かなエロス。
彼女への感情は微かではあるけれど、エロスと断言していいと思う。人と人とのある種の関係をエロスと言うのではないか。エロスには濃厚なものから薄いそれまで幅広い階調があるのだ。性愛を最も濃いエロスとして、異性の友人から知人と続くエロスの階調。憎しみでさえ負のエロスだ。では何でもエロスか、いや、そうではない。エロスから最も遠いものが無関心だ。