ブータン仏教から見えるもの

 今枝由郎「ブータン仏教から見た日本仏教」(NHKブックス)は、フランス留学を経てブータンで10年間仏教に関する研究生活を送った仏教学者が、日本の仏教を批判している書だ。日本の僧侶は妻帯しているが、これでは在家信者と変わらない。回忌法要を行ったり墓を作っているのは日本仏教だけだ等々。
 本書の中で紹介されているあるエピソードが面白かった。
ブータン仏教から見た日本仏教 NHKブックス

 1974年は日仏会館創立50周年に当たる年で、フランスから多くの学者が訪日した、そのうちの一人に、ルヌー夫人がいた。(中略)かつてルヌー教授が日仏会館フランス人館長であった頃、ルヌー夫人は昭和皇后陛下のフランス語の教師であり、その関係で皇居に皇后陛下に面謁に伺われた。
 その後、私は夫人に同行して京都に赴いた。その折りに、夫人はかつてパリで面識があった大谷暢順氏を東山の自宅に訪問された。東本願寺の大谷家の一員である氏は、かつてフランスに学び、浄土真宗に関するフランス語での著作も数冊あり、私もその名前だけは存じ上げていた。東山の大谷廟のさらに奥にある氏の邸宅は、驚くべく広大で、立派であった。私は夫人といっしょに豪華な昼食のお相伴に預かった。
 東京への帰りの新幹線のなかで、夫人はこう言われた。「私は、日本では天皇陛下が一番立派な屋敷に住んでいると思っていた。しかし、それが間違いだったのがよくわかった」。