スタニスワフ・レム『地球の平和』を読む

 スタニスワフ・レム『地球の平和』(国書刊行会)を読む。レム最後から2番目の長篇SF小説。お馴染み泰平ヨンが主人公で饒舌に語り活躍する。出版社のホームページから、その内容紹介。

 

自動機械の自立性向上に特化された近未来の軍事的進歩は、効果的かつ高価になり、その状況を解決する方法として人類は軍備をそっくり月へ移すことを考案、地球非軍事化と月軍事化の計画が承認される。こうして軍拡競争をAI任せにした人類であったが、立入禁止ゾーンとなった月面で兵器の進化がその後どうなっているのか皆目わからない。月の無人軍が地球を攻撃するのでは? 恐怖と混乱に駆られパニックに陥った人類の声を受けて月に送られた偵察機は、月面に潜ってしまったかのように、一台も帰還することがなかったばかりか、何の連絡も映像も送ってこなかった。かくて泰平ヨンに白羽の矢が立ち、月に向けて極秘の偵察に赴くが、例によってとんでもないトラブルに巻き込まれる羽目に……《事の発端から話した方がいいだろう。その発端がどうだったか私は知らない、というのは別の話。なぜなら私は主に右大脳半球で記憶しなくてはならなかったのに、右半球への通路が遮断されていて、考えることができないからだ》レムの最後から二番目の小説にして、〈泰平ヨン〉シリーズ最終話の待望の邦訳。

 

 まず泰平ヨンは左脳と右脳を結ぶ脳梁をなぜか切断されてしまっている。一人の人間に二つの脳が存在することになった。これが一つのテーマで、もう一つは兵器の究極の進化はどうなるかという、レムが初期から追及してきたテーマが具体化している。本書の執筆が1984年という37年も昔のことながら、すでに最近の兵器の進化に想像が及んでいる。天才の脳の構造は、インドの数学者ラマヌジャンのように凡人には全く想像もできない。

 SF評論家の大森望がレムについて、「まあ、たいへんなおっさんですわ。きみ、頭よすぎ」とか、レムの『天の声』について、「これに比べりゃ、(グレッグ・イーガンの)『ディアスポラ』なんて綿アメですよ」とまで言っている。

 本書はスタニスワフ・レム・コレクションの第2段で、この後さらに5冊の刊行が予定されている。楽しみなことである。

 

スタニスワフ・レム・コレクション」

https://www.kokusho.co.jp/np/result.html?ser_id=164