ベンガル語とハンガリー語

 もう十数年前になるが、某化学工業会社からバングラデシュに輸出する殺虫剤のパンフレットの制作を依頼された、バングラデシュベンガル語ノーベル文学賞詩人タゴールの国だ。渡されたのはかすれたタイプライターで印字された原稿。当時日本にはベンガル語の活字はもちろん、写植の文字盤もなかった。わずかにバングラデシュ大使館にタイプライターがあるのみ。
 まず日本バングラデシュ友好協会に連絡を取り、バングラデシュから日本の美術大学に留学している学生を紹介してもらう。彼のアパートを訪ね、タイプライターで印字された文字をきれいに清書してもらった。それを日本のイラストレーターにトレースしてもらう。その文字を写植の文字盤に変えてもらい、それで版下を作って無事パンフレットを制作したのだった。
 このバングラデシュから多摩美だったかに奥さん連れで留学している学生が自信家だった。日本では洋画の歴史はたかだか100年ちょっとに過ぎない。バングラデシュには200年の歴史がある。お説ごもっともと拝聴した。見せてくれた作品は200年の歴史とは関係ないものだった。

 ハンガリー語のチラシを作った時も面白かった。やはり現地で作ったタイプライターの原稿が渡される。それをもとに版下を作って、日芬友好協会から紹介された方に校正をしてもらう。驚いた。これは駄目ですと言われた。ハンガリー語は、アクセント記号やら何やらが多くてタイプライターでは対応しきれない、だからタイプされた文字はそれらを省いて打たれている。読むときに、省かれている記号を補って読むのだという。しかし、ちゃんと印刷するときにはそれらの記号を追加するのが常識なのだ。これは想像外だった。