「を」の発音

 有隣堂書店の店内に置いてある本の検索用のパソコン端末の表記が気になった。岩合光昭「ネコを捕る」を検索しようとして、書名検索欄に「ねこをとる」と入力したのだが「見当たりません」となってしまうのだ。ベストセラーだ、そんなわけはない。注意書きを読んで「ねこおとる」のように「を」ではなく「お」を使わなければならないことを知った。
 30年以上前、入社した出版社で読み合わせ校正をした時のことを思い出した。これは校正の一種で、一人がゲラを読みもう一人が原稿を見ていて誤字脱字をチェックする方法だ。埼玉出身の女子社員と読み合わせをしたのだが、彼女が「種お買う」と読んでいるように聞こえるので、「を」はなんて発音する? と聞いたら「お」だという。他に東京出身の女性がいたので確かめると同じだった。東京あたりでは「を」を「お」と発音するのかと驚いたのだった。
 当時取引先の印刷会社に印象的な女性社員がいた。電話口でもきびきびとした受け答えをし、訪問したとき「いらっしゃいまし」と挨拶された。聞けば東京九段の出身だという。江戸っ子だ。
 今年日本橋の小さな蕎麦屋に入った時も「いらっしゃいまし」と迎えられた。この蕎麦屋も古いらしい。この江戸っ子たちに「を」の発音を聞いてみたい。「お」ではない気がするのだが。