野見山暁治の語る抽象画

 以前、NHK教育テレビで土曜日の早朝に画家にインタビューする「土曜美の朝」という番組があった。それを編集して出版したものが「NHK土曜美の朝ー美に生きる1」(日本出版協会)という本だ。そこから引用する。

ーーーー 先生はたしか抽象でも、世の中にあるものしか描かないんだ、ということをおっしゃっていますね。
野見山  具象はもちろんですが、抽象だって見ないものは誰も描かないと思うんです。これは木とか家とか、具体的な観念としての形を覚えているということじゃなくて、ああいう形とか、ああいう色合いとか、目が体験したものを踏まえて描いていると思います。
ーーーー そういうお話は、やはり見る側にとっては手がかりになりますね。
野見山  ですから、逆に、これはテーブル、これは本というふうに、ものの説明にこだわると、絵はわからない、抽象はわからない、ということになるんだと思います。そういうものとしての、価値とか用途をはずして見ていけば、難しくも何ともないんです。