きれいな歩き方

 歩き方について書いてみたい(自分のことは棚に上げている)。以前NHK教育テレビの「日曜美術館」に歌人俵万智が出演していた。番組の企画で俵万智が美術館を訪ねることが何度かあった。美術館の玄関に向かって俵万智が歩いていくのをカメラが追いかける。それがいつも嫌だった。彼女の歩く姿が美しくないのだ。それは彼女が美しくないからとか小母さん(じゃないけど)だからというのとは違う。多分私は無意識に女優たちの歩き方と比べているのだろう。
 ある演出家がクラシックの音楽家について同じようなことを書いていたのを読んだことがある。演奏家たちが舞台に出てくる姿が美しくないというのだ。その演出家は知人の音楽家の歩き方を指導した。すると見違えるくらいきれいな歩き方、舞台への登場の仕方になったという。
 音楽家たちも俵万智も、共通するのはきれいな歩き方を指導してもらってないことだ。女優たちは違う。普段演出家が指導している。すると、ただ歩いてくるだけで見とれてしまうくらいきれいなのだ。演出というもののすごさだ。