椹木野衣「日本・現代・美術」を読んで

日本・現代・美術
 もう10年ほど前に出た椹木野衣「日本・現代・美術」(新潮社)をやっと読んだ。出版当時高く評価されていた。特に針生一郎さんが強く推していたのが印象に残った。出版直後のシンポジウムで、著者が「この本は各時代ごとの美術状況をその時代の文体を使って書き分けた」と言っていたので、なんというすごい才能なのかと驚いたことを憶えている。
 そしてこのたびようやく読み終わって、著者は案外作品そのものは見ていないようだと思った。個々の作家とか作品とかについての当然あるべき記述が少ないのだ。具体的な作品を見ないで、雑誌とか評論集とか、その時代に書かれた文章を読んで本書を書いたのではないか。まあ著者の年齢からして過去の作品にきちんと目を通すのは難しいことではあろうが。そのことが分かると、先のその時代の文体で書いたという発言も理解できる。その時代のテキストから論を起こしているので、必然的にその時代の文体になってしまうのだ。