山内薫の詩

 詩人の山内薫さんは東京都墨田区の図書館に勤めている。以前は子どもたちに本の読み聞かせをしていた。そのとき詩を1編プリントした小さなカードと、その詩のテーマの植物の種や実を一緒に袋に入れて子どもたちに配っていた。どこかの出版社で絵本にしてくれるといいなあ。その一部を作者の許可を得てここに紹介する。



  クルミ


クルミは脳
ポケットに入れるとポケットは考えはじめる
太陽を見るには どうすればいいか
あちらのポケットには 何が入っているかと
くつに落とすとくつは考えはじめる
空を歩くにはどうすればいいか
相棒はいっしょについて来るか
そして てのひらにのせてにぎると
手は考えはじめる
人の心をつかむには どうすればいいかと
クルミはくるまれて考えはじめる脳



  オナモミ


オナモミは おどろいて、おびえて、
それとも おこって、
こんなに トゲを たてているのだろうか
  ひとりで ほうりだされて………
やがて トゲはみな 手となり
四方八方に それをのばし
もう一つの手をみつけるだろう
そうすれば もう
おどろかない おびえない おこらない



  野茨の実


じっとして 小さくなり
力をこめて うずくまっていると
だんだん 赤くなってくる
あの夏の せんこう花火の 玉のように
赤く赤く もえてくる
初日の出のように もえてくる
新しい年に 生まれ変わるために



  楓の翼種


手からこぼれた プロペラ二枚
小川をわたって 竹トンボ
野原をこえて ヘリコプター
雲をつきぬけ 宇宙船
星をめぐって おりてきて
そっとわたしの 天使のはね



  カラスノエンドウの莢


さやのなかから よんでいる
さやのなかで うまれている
  ちいさな いのち
  みどりの いのち


さやのふねで ねむってる
さやのふねで ながれつく
  はるかな いのち
  とおい いのち