クモをいじめて遊んだ

 あれは何ていう名前のクモだったろう。ジグモ(地蜘蛛)というのだったか。木の根本に地中から伸びた細長い袋状の巣を作り、小さな虫がその巣に触れると地中から素早く上がってきて獲物を補食するというクモ。その狩りを直接見たことはなかったが、小学生の頃担任の宮嶋先生から教えられて、イネ科などの草の葉を使ってそのクモの巣をそっと刺激した、あたかも小さな虫の脚がクモの巣に触れたかのように。すると地中に潜んでいたクモが袋状の巣を駆け上がってくる。しぼんでいた巣がクモの形に丸く膨らむ。すかさずその膨らんだ所の下を指で押さえる。クモが地中に戻れなくする。巣を引き抜き、それを裂くと丸々としたクモが現れる。けっこう大きい。背中を持ってひっくり返し、細い棒で腰を押さえる。クモはあわてて鋭い牙だか爪だかをやみくもに振り立てる。振り立てるとはいっても、クモにとっては上下に動かすだけだ。細い棒で腰を押さえているからクモは深く前屈していて、牙だか爪だかは自分の腹を何度も突き刺す。腹が割れ内蔵がこぼれる。クモは死ぬ。小学生は面白がってこの遊びを繰り返し続けた。自傷するクモ。それは強く印象に残って、成人した後も何かで激しく自己否定するときなど、自分の腹を切り裂くあのクモの映像をくっきりと思い出すのだった。俺はいま自分の腹に爪を突き立てているあの時のクモだ。