千野栄一『ビールと古本のプラハ』を読む

 千野栄一『ビールと古本のプラハ』(白水社uブックス)を読む。千野は先日読んだ『言語学を学ぶ』https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/2022/12/04/205950 の著者。若いころチェコスロバキアに9年間留学している。そのチェコの首都プラハの美味しいビールや古本屋を紹介している。われわれにとってなじみの薄いチェコスロバキアのことを詳しく紹介してこんなに面白いエッセイにまとめているなんて、千野は優れたエッセイストなのだった。

 それにしてもビールの飲み方や銘柄がこんなに深いとは知らなかった。一番美味しいビールを飲ませる店は「黄金の虎」という名前で、常連以外は入りにくいし、常連の席に座っても追い出されてしまう。さすがに千野はここの常連だった。

 おいいしいビールは取扱いが難しく、樽を置く地下室の温度は6度で一年中安定していなければならない。温度が低すぎれば泡が消え、高ければ泡が大粒になって絹漉の泡といかなくなる。ビアホールに通う人の中にはビールのための温度計を持ち歩いている人がいて、泡の粒が大きすぎたり、泡がなくなっていると、ビールの中にこの温度計を入れ、「このビールなあに?」とつきかえしてしまうという。

 そういえば日本ではキリンシティがビールの注ぎ方にこだわっていて、3回に分けて注ぐから美味しいんだと言っていたが、チェコ人に飲ませたら何というだろうか。私はキリンシティで結構満足していたが。

 プラハの古本屋は1989年に「ビロード革命」が起こり、経済面の変革を受け一変する。古本の値段が高騰し、家賃が上がって古本屋が維持していけなくなる。それでも東京で買うより安いと千野は買うのだが。

 本書に収められたエッセイのほとんどは、1990年代の岩波書店の『図書』に掲載されたものだ。それなら雑誌連載時に読んでいたはずだが、どれも憶えていなかった。