千野栄一「外国語上達法」(岩波新書)がすばらしい。名著と言っていいのではないか。1986年に初版が出て昨年暮れまでの23年間に38刷りを発行している。著者は外国語にコンプレックスを持っていたと書きながら、語学が不得意だと言いながら、
考えてみると、英・独・ロシア・チェコ・スロバキアの五つの言語には翻訳されて活字になったものがあるし、外交官の外務研修所で教えたことがある言語も、ロシア・チェコ・セルビア・ブルガリアの四つがあり、このほか大学では古代スラブ語を教えている。
苦手な外国語を次々にマスターしていく具体的な方法を語ってくれる。しかも面白いエピソードも数多く紹介されている。
外国語を学ぶためにはまず目標をはっきりさせる。何語を何の目的で学ぶのか。次にどの程度習得するつもりか。語学が上達するのに必要なものは、お金と時間。そして毎日繰り返すこと。覚えるのは語彙と文法。外国語を学ぶために望ましいのは、いい教科書と、いい教師、そしていい辞書の三つ。それらをていねいに紹介してくれる。
ある外国語を習得したいという欲望が生まれてきたとき、まずその欲望がどうしてもそうしたいという衝動に変わるまで待つのが第一の作戦である。そして、その衝動により、まず何はともあれ、やみくもに千の単語を覚えることが必要である。この千語はその言語を学ぶための入門許可証のようなものであり、これを手にすれば助走成功で、離陸が無事に済んだとみなしていい。
その時どのような単語を覚えるべきかが語られる。次いで、文法と学習書が紹介され、良い教師の条件が示される。良い教師とは、1.語学教師は自身、その語学がよくできなければならない。2.教え方が上手であること。3.教えることに対する熱意と先生の個人的魅力が必要。次いで辞書が紹介されるが、その辞書がどういう目的で作られているか、編集主幹の「はしがき」「編集の方針」「使い方への指示」は絶対に読まなければいけない。そして「辞書は多ければ多いほどいい」というのが公理であるとされる。
発音については、始めが肝腎という。以下、会話、文化・歴史と続く。
もう外国語を学ぼうとする意欲のない私だが、本書はとことん面白かった。外国語を学ぶつもりもないのに、なぜ読んだのか。著者の千野栄一が好きだからだ。チェコ語の専門家千野栄一とモンゴル語の専門家田中克彦は、私の尊敬する二人の言語学者だ。どちらの言語も世界の中心ではなく周辺の言語だ。周辺からは世界が見えるのだ。
・周辺からは世界が見える(2006年11月12日)

- 作者: 千野栄一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1986/01/20
- メディア: 新書
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