古代ギリシアでは剃毛プレイが盛んだった?

 資生堂のPR誌「よむ花椿」に面白いエッセイがあった。「古代ギリシアでは、女性が陰毛を剃る風習があった」と言う。まあ、戦後でも日本女性は脇毛を剃らなかったし、男は今でも剃らない。剃るのも剃らないのも単なる習慣だ。

 1913年、ヴァン・ドンゲンがサロン・ドートンヌに出品した「スペインのショール」というヌードの大作は当局に撤去を命じられ、表現の自由を巡って大きな論争を呼んだ。多くの芸術家や文学者はこの絵を擁護し、画家の名声はかえって高まったのである。しかし、1917年、モディリアーニがパリのベルト・ヴェイユ画廊で個展を開いたとき、ショーウィンドウに何点かのヌードを飾ったところ、警察によって猥褻罪に当たると警告されて撤去することになった。この騒動で、この画家の生涯で唯一の個展は失敗に終わり、ほどなくして画家は貧困のうちに病死することになる。
 ヴァン・ドンゲンの裸婦もモディリアーニの裸婦も黒々と陰毛が描かれていたことが問題となったようである。それまでのヌードは、股間は手で隠されているか、そうでないときにも、アングルの「泉」のように、性器も陰毛もまったくないすべすべの肌として表現されるのが普通であった。そもそもは、ヴィーナス像として女性ヌードが成立した古代ギリシアでは、女性が陰毛を剃る風習があったためである。そのため西洋では、たとえモデルに陰毛があってもそれを表現しないという慣習ができあがっていた。イギリスの批評家ジョン・ラスキンは、生身の女性もヌード彫刻と同じようなものだと思い込んでいたため、新婚の初夜に裸体となった妻の陰毛を見てショックを受け、離婚して終生独身を貫いたというのは有名な話である。

宮下規久朗「芸術か猥褻かーーヌードが取り締まられるとき」(「よむ花椿」2007年12月号)