入浴のルール

 若いとき1年間今はもう無くなった日産自動車座間工場に勤めた。フェンダーを作るプレス工をしていた。工場のわきに男子独身寮があり、何百人もの同僚がそこで暮らしていた。仕事でかいた汗を流すために毎日そこの共同浴場を使っていたが、最初に簡単な入浴のルールを教えられた。いや何、湯船にタオルを持ち込まないという当たり前のことだ。その後銭湯を経験すると、タオルで前を隠してそのまま湯船に入る者、一切隠し立てしない者、手で覆って湯船に入る者、いろいろな流儀があることが分かったが、日産自動車座間工場男子独身寮の共同浴場では全員が同じ行動を採っていた。右手または左手で軽く握り、それを90度横に曲げる。ここで曲げないとおかしな格好になる。そのまま湯船につかる。湯船の中では手を離していたけれど。先端がちらっと見えたり根元が少し見えたりするかもしれないが、手が小さくて大きくはみ出すようなやつはいなかった。やってみるととても合理的に思えて、その習慣はその後もずっと、温泉の共同浴場や銭湯に入るときも変えなかった。社員旅行などで変だと指摘するやつもいたが、ちっとも変じゃない。タオルごと湯船に入るやつの方がよっぽど変ではないか。隠し立てしなくてもいいのだが、私はシャイというか謙虚なものだからそれは出来かねた。今でも優れた方法だと思っている。