日本語のピジンイングリッシュ化を危惧する

 mixiのあるコミュの掲示板に若者がイベントの告知をしていたが、詳しくはこの「フライヤー」でと書いていた。フライヤーってちらしだ。どうしてちらしって書かないのか。英語を使えばかっこいいと思っているのだろうか。ケーキは洋菓子で菓子ではないが、フライヤーはちらしだ。言い換える理由がない。これはピジンイングリッシュへの第一歩だ。
 ピジンイングリッシュなどのピジン言語について、Wikipediaによれば、

ピジン言語(ピジンげんご、Pidgin languageまたは単にPidgin)とは、貿易商人など外部の人間と現地人との間に於いて異言語間の意思疎通のために自然に作られた混成語(言語学的に言えば接触言語)。これが根付き母語として話されるようになった言語がクレオール言語である。旧植民地の地域で現地に確立された言語がない場所に多く存在する。英語と現地の言語が融合した言語を「ピジン英語」といい、一般に英語の“business”が中国語的に発音されて“pidgin”の語源となったとされている。

親の世代が第二言語として話していたピジン言語が、母語として獲得されてクレオール言語として定着する過程をクレオール化と呼ぶ。社会的に認められて、名前に「ピジン」とあってもクレオール言語として定着しつつある言語も多い。なお、ある程度定着してまとまった数の母語話者がいる場合は、便宜上「ピジン言語」ではなく「クレオール言語」に分類される事が多いが、両者の間にはっきりとした境界があるわけでは無い。

 田中克彦からの孫引きだが、ハンコクが1977年に世界全体でのピジンクレオール語の分布図を作っている。それによると日本では2カ所に印が付けられている。幕末の横浜と戦後のアメリカ軍基地周辺だ。後者ではアメリカ兵と付き合っている日本の若い女性(パンパンと呼ばれた)が「ミーはね、ウォント・マニーなのよ」などと言っていたと紹介されている。ピジン語は「その場かぎりのコミュニケーションを何とかきりぬけるためのやりくり言葉」なのだ。
 それに対してユダヤ人が使っているイディッシュ語は元々ユダヤ人用ドイツ語で、ドイツ人からはくずれたドイツ語だと言われていた。これが典型的なクレオール語の成立だという。
 さて、日本人が必要もなく英語を日本語に混ぜて使ってゆけばピジン語になってしまうのではないかと危惧しているのだ。実際電話を受けてそのことを伝えるメモにいつも「xxx氏よりtel、要Call back!」と書いている軽薄な男がいた。まあ、彼はふだん外人のことを毛唐と呼んでいたが。ここで最初に戻って「フライヤー」と書いた若者も一種の外人コンプレックスではないかと思うのだ。
 ※田中克彦クレオール語と日本語」(岩波書店