A. ストー/河合隼雄 訳『ユング』を読む

 A. ストー 著/河合隼雄 訳『ユング』(岩波現代文庫)を読む。一昨年読んだ最相葉月『セラピスト』(新潮社)でユングに興味を持ち、ついで読んだ河合隼雄『影の現象学』(講談社学術文庫)と河合隼雄河合隼雄自伝』(新潮文庫)でいっそう興味が増した。ユングの著書も買ったが、まずストーの解説書から読んで見た。
 訳者の河合隼雄ユング派の分析家で、ストーはイギリスの精神科医、河合によればフロイト派でもユング派でもない中立の立場から本書を執筆しているという。深層心理学フロイトユングアドラーなどいくつかに分かれている。「フロイトが性のオーガスチックな解放に至上の価値を帰したのに対し、ユングは宗教的な統合的経験に至高の価値を見出した」とストーが書いている。
 ユングの重要な概念は、「元型」や「普遍的無意識」、「アニマ、アニムス」等々だろう。元型については、「それは、いかなる特定の文化によって生み出された実際の顕現にも等しいものではないが、なおかつ、あらゆる文化によって生み出されたあらゆる表出の基盤となっているのである」。アニマ、アニムスはそれぞれ男性が女性に対して持つ元型的イメージ、女性が男性に対して持つ元型的イメージとされる。
 普遍的無意識という言葉については、河合が訳注で解説している。「ユングの概念の中でも極めて重要なものである。(その訳語は)……ユングのもともとの考えは……人類に普遍的に認められる無意識の存在を仮定することにあったので、個に対する普遍として、普遍的無意識という訳語にした。しかし、文脈によっては、集団(もしくは集合)的無意識と訳す方が適当と感じられるところもあり、訳語の決定に迷う……」。
 「(普遍的無意識は)さまざまな文化や歴史時代に共通な神話、幻像(ヴィジョン)、宗教的観念、幾種かの夢の自発的な産出を担っている」。文化ごとに異なる神話の傾向とも言い換えられる。それは民族に共有されている無意識ということのようだ。
 ここに本書を要約しようとして、自分の力不足を感じる。しかし気持ちよく論理をたどることのできる本だった。河合隼雄のていねいな訳注と、巻末の解説が理解を助けてくれる。ユングの世界をもう少し詳しく知りたいと思った。
 と、ここまで書いて、むかし大江健三郎が『ユング自伝』を読めば、夢についてはすべて分かると書いていて、早速買って読んだが面白かったことを思い出した。夢についてすべて分かるというのは納得できなかったけれど。


最相葉月『セラピスト』を読む(2014年11月15日)
河合隼雄『河合隼雄自伝』を読む(2015年10月4日)
河合隼雄『影の現象学』を読む(2015年10月26日)


ユング (岩波現代文庫)

ユング (岩波現代文庫)