山根明弘『ねこはすごい』を読む

 山根明弘『ねこはすごい』(朝日新書)を読む。山根は以前ここでも紹介した『ねこの秘密』(文春新書)の著者。北九州市博物館に勤める動物学者で、動物生態学や集団遺伝学の専門家。だから数ある猫本の中でも記述が深い。
 全体が5章からなっていて、「ねこはつよい」「ねこの感覚力」「ねこの治癒力」「Cool Japan! 日本のねこ文化」「人とねこの共存社会に向けて」とあり、中でも最初の2つの章がとくに面白い。ねこの身体能力について、これほど優れているとは知らなかった。
 イエネコも身体能力は先祖のリビアヤマネコの能力をほぼそのまま受け継いでいるという。身体の5倍くらいの高さ(約1.5m)に助走なしで飛び乗り、短時間ながら最高速度は時速50km、牙を獲物の頸椎の隙間に突き刺して瞬時に脊髄を切断する。
 母ねこの出産と育児についての記述が興味深い。「自分の身体を削りながら、独りで静かに新しい命を生み落とし、そして育て上げる」、その詳細が書かれているが、まさに感動ものだ。
 「ねこは、ねこや人の声の聞き分けができるのか」という項で紹介されているエピソード。母ねこが外に出たまま帰ってこないことがあった。近くの道路のアスファルトにそのねこの毛と思われる茶色の毛が張りついていた。おそらく車に轢かれて死んだものと思って死体を探したが見つからなかった。10日ほどたったある日、飼い主が思いついて、事故のあった付近にその娘ねこをかごに入れて連れていき探したら、娘ねこの鳴き声を聞いて、近くの家屋の軒下に隠れていた母ねこが、前脚で這って出てきた。母ねこは骨盤を骨折していたが、獣医師の手当てによってほぼ完治した。大けがを負いながら飲まず食わずで10日間も生きのびていたという。この話も感動的だった。
 やはり動物生態学者だから、記述にあいまいなところがない。福岡沖の相島に7年間通って、島の野良猫200匹を個体識別したという研究体験の裏打ちが説得力ある記載になっている。読み終えて、私の飼っているねこが一層いとおしく感じられた。
 ねこ好きな人にはぜひ勧めたいし、そうでない人もねこに対する印象が変わるだろう。200ページ余あるが、行間が広いので1頁当たりの文字数は前著『ねこの秘密』の90%未満だ。ページ数もやや少なく、全体では75%くらいになってしまう。写真やイラストをもっと使えばよかったのに。


『ねこの秘密』を読む(2014年10月16日)


ねこはすごい (朝日新書)

ねこはすごい (朝日新書)