2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

手嶋龍一『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』を読む

手嶋龍一『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』(マガジンカウス)を読む。著者の手嶋はもとNHKワシントン支局長、テレビニュースで何度も見かけていた。そんな経歴から国際政治の裏面に通じているようで、対テロ戦争を描いたノンフィクションやイン…

片山杜秀・島薗進『近代天皇論』を読む

片山杜秀・島薗進『近代天皇論』(集英社新書)を読む。片山は政治思想史研究者、島薗は宗教学者。二人の対談をまとめたものでとても読みやすい。 まず片山が司馬遼太郎の「司馬史観」を紹介する。 片山 島薗先生のお話を聞いていて、もうひとつ思い起こした…

アートギャラリー環の野津晋也展「ここの山、隣の雲」を見る

東京神田のアートギャラリー環で野津晋也展「ここの山、隣の雲」が開かれている(10月14日まで)。野津は1969年島根県松江市生まれ、1992年に鳥取大学農学部を卒業した。さらに2000年に東京芸術大学美術学部油画専攻を卒業し、2002年に同じく東京芸術大学大…

ギャラリーなつかの「たまびやき」を見る

東京京橋のギャラリーなつかで「たまびやき」が開かれている(9月30日まで)。「たまびやき」は、毎年ギャラリーなつかで開かれる多摩美術大学工芸学科/陶/選抜作品展だ。今年は第9回になり、参加している作家は、石井あや子、玖島優希、李愛琳、榊美智子…

半藤一利『其角と楽しむ江戸俳句』を読んで

半藤一利『其角と楽しむ江戸俳句』(平凡社ライブラリー)を読む。宝井其角は芭蕉の高弟、蕉門10哲の筆頭の俳人だという。其角の俳句を取り上げてそれを解釈してくれる。ところが其角の俳句は難しい。半藤が解釈してくれるのだが、それでも難解だ。具体的に…

誤解していた諺

吉行淳之介の『やややのはなし』(小学館)を読んでいたら誤解されている諺について書かれていた。「顧(かえり)みて他を言う」の意味について、何人かの知人にその意味を尋ねると皆その意味を誤解していたという。「自分自身にたいしての反省の上に立って…

片山杜秀『クラシックの核心』を読む

片山杜秀『クラシックの核心』(河出書房新社)を読む。バッハ、モーツァルト、ショパン、ワーグナー、マーラー、フルトヴェングラー、カラヤン、カルロス・クライバー、グレン・グールドの9人の音楽家を取り上げている。雑誌『文藝別冊』の特集に掲載したも…

谷村志穂『チャイとミーミー』を読む

谷村志穂『チャイとミーミー』(河出文庫)を読む。名前を聞いたことのある女性作家だけれど、著書は一つも知らなかった。表紙に猫のイラストがあり、飼い猫のエッセイだろうと見当をつけて手に取った。猫、可愛い可愛いみたいなエッセイじゃないだろうなっ…

柴田克彦『山本直純と小澤征爾』を読む

柴田克彦『山本直純と小澤征爾』(朝日新書)を読む。帯の惹句に「埋もれた天才と世界の巨匠」とある。さらに「日本のクラシック音楽の基礎を築いた二人の波乱万丈な人生」と。小澤征爾の言葉として、「僕はいつも彼の陰にいました。でも対抗心なんてまった…

TS4312の桑原盛行展を見る

東京都新宿四谷三丁目のギャラリーTS4312で桑原盛行展が開かれている(9月24日まで)。桑原は1942年広島県出身。1967年に日本大学芸術学部美術学科を卒業している。1968年にシェル美術賞展で1席を獲得した。同年サトウ画廊で初個展、その後伝説の南画廊やギ…

小林信彦『私の東京地図』を読む

小林信彦『私の東京地図』(ちくま文庫)を読む。小林信彦は東京都中央区東日本橋で生まれた。それは現在の地名で、1971年に地名が変更される前は両国と言った。隅田川を挟んだ今の両国は東両国だった。役人は地名の成り立ちを知らないからわけのわからぬ町…

片山杜秀『国の死に方』を読む

片山杜秀『国の死に方』(新潮社新書)を読む。これがおもしろかった。片山は音楽評論の世界でも高い評価を受けていて、音楽に関する著書も多いが、もともとの専門は政治思想史の研究者なのだ。音楽評論では吉田秀和賞とサントリー学芸賞を受賞している。 本…

橋本治+橋爪大三郎『だめだし日本語論』を読む

橋本治+橋爪大三郎『だめだし日本語論』(太田出版)を読む。これがわくわくするほど面白かった。橋本治は小説の『桃尻娘』シリーズで人気を博した小説家。その後『枕草子』や『源氏物語』などの古典の現代語訳の仕事も定評がある。橋爪大三郎はきわめて有…

杉森久英『滝田樗陰』を読む

杉森久英『滝田樗陰』(中公文庫)を読む。副題が「『中央公論』名編集者の生涯」というもの。滝田樗陰が『中央公論』のアルバイト編集者になったのは明治37年ごろだった。当時の印刷部数はたった1,000部で、寄贈が300部、販売部数が300部で、廃刊寸前だった…

Art Mallの「漱石にささげるアート展」を見る

東京日本橋三越前のギャラリーArt Mallで「漱石にささげるアート展」が開かれている(9月22日まで)。夏目漱石生誕150周年で、自宅書斎や客間などを再現した施設「新宿区立漱石山房記念館」が9月24日に新宿区にオープンすることになり、それに合わせて漱石も…

うしお画廊の大沢昌助展を見る

東京銀座のうしお画廊で大沢昌助展が開かれている(9月22日まで)。DMはがきに息子さんの大沢泰夫が書いている。 牛尾さん主催の三回目の昌助展です。 今回は水彩、版画等、紙の作品を主に、油彩画を数点加えました。ちなみに今年は昌助が逝って20年。生前、…

ギャラリー川船で浜田浄展を見る

東京京橋のギャラリー川船で浜田浄展が開かれている(9月16日まで)。浜田は1937年高知県生まれ、1961年多摩美術大学油科を卒業している。1964年、東京杉並区のおぎくぼ画廊で初個展、以来数多くの個展を開いている。2015年には練馬区立美術館で回顧展が開催…

小林画廊の秋山泉展を見る

東京銀座の小林画廊で秋山泉展が開かれている(9月16日まで)。秋山は1982年山梨県甲府市生まれ、2007年に東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業し、2009年に同大学大学院美術研究科絵画専攻を修了している。 2009年から小林画廊で個展を繰り返し、山梨…

牟礼慶子『鮎川信夫 路上のたましい』を読む

牟礼慶子『鮎川信夫 路上のたましい』(思潮社)を読む。もと「荒地」の仲間であり、鮎川から直接詩の手ほどきを受けた詩人による鮎川信夫の伝記。鮎川の生前親しくつきあってもいた。そのため、ほとんど自己を語らなかった鮎川の生活を紹介してくれている。…

「引込線2017」を見る

東京所沢市の旧所沢市立学校給食センターで「引込線2017」が開かれている(9月24日まで)。本展はもともと2008年に「所沢ビエンナーレ美術展〈引込線〉」として始まったが、その後「引込線」と名前を変えて今回で6回目になるという。今回のちらしに次のよう…

鈴木紀之『すごい進化』を読む

鈴木紀之『すごい進化』(中公新書)を読む。“「一見すると不合理」の謎を解く”というのが副題。著者は昆虫学者なので、昆虫の事例がたくさん紹介される。いずれもとても興味深い。 塚谷裕一が読売新聞に書評を書いている(7月16日)。 性の進化の問題とは…

佐々木幹郎『中原中也』を読む

佐々木幹郎『中原中也』(岩波新書)を読む。中也論の最良の1冊だろう。佐々木は詩人であって、『新編中原中也全集』(角川書店)の責任編集委員なのだ。 佐々木は中原中也全集の編集を通じて、中原の詩の推敲過程をじっくり研究する。たとえば「朝の歌」を…

ギャラリイKのこばやしゆうさく展「生・痕跡としての版」を見る

東京京橋のギャラリイKでこばやしゆうさく展が開かれている(9月9日まで)。こばやしは1993年山形県生まれ。出身校を聞きそびれてしまったが、2016年「東北芸術工科大学修了展」瀬島賞受賞とあった。今回が初個展となる。 画廊の空間いっぱいに紐が張り巡ら…

鈴木貴博『アマゾンのロングテールは、二度笑う』を読んで

鈴木貴博『アマゾンのロングテールは、二度笑う』(講談社)を読む。副題が「50年勝ち残る会社をつくる8つの戦略」というもの。副題のとおり経営戦略の本だ。発行が2006年10月と古い。古い経営戦略の本で、しかも経営とは私に最も遠い世界だ。なぜ読むのか?…

ギャラリー7℃の作間敏宏展「治癒」を見る

東京中目黒のギャラリー7℃で作間敏宏展「治癒」が開かれている(9月10日まで)。ギャラリーへ足を踏み入れると左手の壁と正面の壁に無数の白黒写真が吊り下げられている。会場にいたスタッフに聞くと1,000枚近くあるという。いずれも暗闇から人がぼんやり…