牟礼慶子『鮎川信夫 路上のたましい』を読む

 牟礼慶子『鮎川信夫 路上のたましい』(思潮社)を読む。もと「荒地」の仲間であり、鮎川から直接詩の手ほどきを受けた詩人による鮎川信夫の伝記。鮎川の生前親しくつきあってもいた。そのため、ほとんど自己を語らなかった鮎川の生活を紹介してくれている。ただ牟礼は鮎川を深く尊敬しており、鮎川が望まなかったであろう部分にまでは踏み込まない。牟礼の品性ということでもあるだろうが、暴露的な言及は一切さけている。
 鮎川の詩の制作過程に沿ってていねいに読み解いている。鮎川についてさまざまなエピソードを知ることができた。巻末には50ページにも及ぶ詳しい年譜も付されている。人名索引も充実しているが、それを見ると、石原吉郎加島祥造もわずか1ページしか触れられていない。鮎川の最初に結婚した相手も静岡出身の女性とだけしか言及されていない。
 鮎川が亡くなったとき、喪主である妻として現れた最所フミについて、鮎川のほとんどの友人が初耳で驚いた。鮎川は親しい友人たちにも結婚していたことを隠していた。その相手が仲間たちにも親しい最所フミだったことをみな驚いたのだった。牟礼は途中から知ったようだが、なぜ鮎川が隠していたのかには踏み込まない。鮎川は38歳のとき12歳年上の最所フミと結婚した。しかし、その後もそれまで同居していた母の住所を外部との連絡先にして、最所との同居先は誰にも告げなかった。鮎川は1986年に66歳で亡くなっている。この2度目の結婚を親しい友人たちにも28年間も隠し通したことの理由は何だったのだろう。牟礼はそれに触れないで済ましている。
 総じて鮎川に寄り添って伝記を綴っている。これはこれで参考になったけれど、本格的な鮎川信夫論を読んでみたい。


鮎川信夫―路上のたましい

鮎川信夫―路上のたましい