谷村志穂『チャイとミーミー』を読む

 谷村志穂『チャイとミーミー』(河出文庫)を読む。名前を聞いたことのある女性作家だけれど、著書は一つも知らなかった。表紙に猫のイラストがあり、飼い猫のエッセイだろうと見当をつけて手に取った。猫、可愛い可愛いみたいなエッセイじゃないだろうなって思いながら。
 マンションに一人暮らしをしていたとき、深夜にハリウッド映画を見ていながら急に息苦しくなった。眠らないままに朝を迎え、友人に電話して猫を飼ってみたいと話した。友人からはペットショップではなく、動物病院から斡旋してもらうようアドバイスされた。なんか所か紹介された内で、もう20センチになっている人見知りするという猫が気に入った。マンションに持ち帰ったが、すぐどこかへ隠れてしまって、丸5日間姿を見せなかった。自信をなくして元の飼い主に返してこようかと友人に電話した。だったら私が引き取ります。毅然とした友人の口調に思いとどまって、ついに7日目の夜、その猫チャイが近寄ってきた。
 チャイとの濃い生活が綴られる。繰り返しおもちゃで遊び、窓辺に来た黒猫に強い興味を示し、ついには網戸へ爪をかけて開け、夜な夜な外出するようになった。窓をしっかり閉めておくと、寝室の出窓をこじ開けて出て行くようになった。出窓をリボンやガムテープでぐるぐる巻きにしても、それを噛み切って出て行った。ついに針金で縛ると、それきり外出しなくなった。
 猫の生活を書こうとすれば飼い主の生活に触れざるを得ない。二人目の男友達が乱暴者で、彼女とけんかをしたときに、チャイを持ち上げてその体に鋏の刃を向けていた。チャイが男の手を噛んで逃げ、「ばかな男はうずくまって、血の流れた手を押さえていた」。
 3人目の男と知り合い、籍を入れる。13歳年下の男だった。やがて娘が生まれる。それは幸せな生活なのだが、どこか私小説じみてもいる。猫のエッセイが読みたかったのに、私小説なんか読みたくはなかった。
 やがてもう1匹の子猫ミーミーが登場する。夫が職場から連れ帰ったのだ。3人と2匹の猫の生活が始まる。
 本書は5年前の2012年に単行本として出版された。今年文庫化されるにあたって「第16章 最後の夏」が付け加えられた。2015年にチャイが22歳で亡くなる。その章のはじめで、谷村が2007年に函館に小さな家を建てたことが明かされる。毎年夏の仕事場として8月いっぱいをそちらで過ごしていた。猫を東京のマンションに置いて行って。一応ペットシッターを雇い、シッターが猫たちの面倒を見てくれる。10年前からそのような生活を送っていた。最後にチャイが亡くなるのは初めて連れて行った函館の家でだった。いや、これが最後ではないかと連れて行ったのだった。だから函館の家のことは書かざるを得ない。いや、何を書かないで省略するのかは作家の自由だ。でありながら、そんな小さくもないことを今まで書かないでいたということは、けっこう都合の悪いことを書かないでいるのではないかと邪推してしまうのだ。
 直接猫に関する記載は決し悪くはなかったが、著者の私生活が書かれている部分はあまり楽しい読み物ではなかった。


チャイとミーミー (河出文庫)

チャイとミーミー (河出文庫)