手嶋龍一『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』(マガジンカウス)を読む。著者の手嶋はもとNHKワシントン支局長、テレビニュースで何度も見かけていた。そんな経歴から国際政治の裏面に通じているようで、対テロ戦争を描いたノンフィクションやインテリジェンス小説も書いているという。
本書ではまずパナマ文書が取り上げられる。パナマ文書とは、パナマの法律事務所モサック・フォンセカによって作成された、租税回避行為に関する一連の機密文書で、匿名の者によって盗み出された膨大な内部データが南ドイツ新聞の記者にリークされ、それをもとに世界の名だたる政治指導者たちの秘密の財産が明るみに出された。一流企業の資産隠しにも利用されていた。本来決して明るみに出ないはずのデータが何者かによって公にされた事件だ。
ついでイギリスのスパイ小説作家ジョン・ル・カレの小説『パナマの仕立て屋』が紹介される。この小説はまさにパナマの政界の闇と、英米の情報組織のかかわりの仕組みがよく書かれている。
第3章は、そのル・カレの生い立ちと、稀代の詐欺師であったル・カレの父親のことが描かれる。ル・カレもイギリスの情報部のスパイをしていたことがあり、詐欺師であった父親との関係からスパイとしての資質が育まれたのだと手嶋が主張する。
またル・カレの代表作でもある『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』の二重スパイのモデルとなったキム・フィルビーについて詳しく書かれる。キム・フィルビーはイギリス情報部に潜入したソ連の最大のスパイであった。グレアム・グリーンもキム・フィルビーを取り上げて『ヒューマン・ファクター』を書いている。
ついで戦前の日本でソ連のためにスパイ活動をしていて捕らえられ処刑されたゾルゲが描かれる。ゾルゲは捕まったあと取調べに当たった特高警察の警部補と取引をし、ゾルゲと関係した日本の女たちに取調べが及ばないようにしたという。
最後にウィキリークスを立ち上げたジュリアン・アサンジと、アメリカのNSAの内部機密を取り出して公表したエドワード・スノーデンの事件が語られる。
なかなか面白く読んだのだったが、NHKワシントン支局長という位置から書かれた裏情報かと思って読んだせいもあるが、多くをル・カレなどのスパイ小説や自伝などに依っていて、ル・カレファンの私としてはどこかで読んだ話だとしばしば思ったことだった。
また常套的な表現がしばしば見られ、あまり文章のうまい作家とは思えなかった。タイトルもモタモタした感じではないだろうか。
汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師 インテリジェンス畸人伝
- 作者: 手嶋龍一
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2016/11/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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