歴史

吉村武彦『蘇我氏の古代』を読んで

吉村武彦『蘇我氏の古代』(岩波新書)を読む。蘇我氏が歴史に登場するのが蘇我稲目からで、宣化天皇の時代になる。大臣に就任している。宣化は継体の子にあたり、次の天皇が欽明になる。稲目は娘を欽明の妃にし、天皇の外戚の地位にあって、政治的影響力を…

『八月十五日の日記』を読む

永六輔 監修『八月十五日の日記』(講談社)を読む。正午にラジオで天皇の詔勅が放送され、ポツダム宣言を受け入れたことが発表された。その8月15日のほぼ100人の日記を集めたもの。日記の作者は大臣から軍人、政治家、作家、学者、俳優など多岐にわたってい…

70年前の今日、山田風太郎の日記から

山田風太郎は『甲賀忍法帖』『伊賀忍法帖』などで名高い大衆作家だ。70年前、昭和20年に書いていた日記が『戦中派不戦日記』(角川文庫)として公刊されている。当時山田は東京医専の学生だった。戦争が終り、学校と共に疎開していた長野県飯田市より東京に…

小熊英二『生きて帰ってきた男』を読む

小熊英二『生きて帰ってきた男』(岩波新書)を読む。副題が「ある日本兵の戦争と戦後」。戦後シベリアに抑留されたある日本兵、実は著者の父小熊謙二の歴史を息子英二が聞き書きでつづったもの。これがとても良かった。原武史が朝日新聞に書評を書いている…

佐谷眞木人『日清戦争』を読む

佐谷眞木人『日清戦争』(講談社現代新書)を読む。副題が『「国民」の誕生』。佐谷は「はじめに」で、この戦争が「二つの意味において、近代の日本が経験した他の戦争とは大きく異なる戦争だった」と書く。そのひとつは、「日清戦争が「国民」を生んだとい…

山田風太郎『戦中派不戦日記』を読む

山田風太郎『戦中派不戦日記』(角川文庫)を読む。山田風太郎がまだ医学生だった昭和20年、22歳から23歳の1年間の日記全文。山田は新宿にあった東京医専、のちの東京医科大学の学生だった。太平洋戦争は大日本帝国の末期にあたり、日記の前年昭和19年から米…

原武史『「昭和天皇実録」を読む』を読んで

原武史『「昭和天皇実録」を読む』(岩波新書)を読む。原は政治学者で、『大正天皇』(朝日文庫)、『昭和天皇』(岩波新書)、そして最近では『皇后考』(講談社)の著書がある。昨年「昭和天皇実録」が公開された。その内容を原が分析している。 「昭和天…

『茶の文化史』と『茶の世界史』を読む

村井康彦『茶の文化史』(岩波新書)と角山栄『茶の世界史』(中公新書)を読んだ。『文化史』の初版が1979年、『世界史』が1980年だった。当時どちらも発行後すぐに読んでいるので、35年ぶりくらいの再読だった。 『文化史』は主として日本の事例を扱ってい…

安丸良夫『神々の明治維新』を読む

先に読んだ安丸良夫『現代日本思想論』(岩波現代文庫)があまりに良かったので、同じ著者の『神々の明治維新』(岩波新書)を読む。副題が「神仏分離と廃仏毀釈」、36年前に初版が出版されたものだ。 明治維新の前後から国学の影響で神道関係者が力を持ち、…

椹木野衣×会田誠『戦争画とニッポン』がおもしろい

椹木野衣×会田誠『戦争画とニッポン』(講談社)がおもしろかった。美術評論家の椹木野衣と画家の会田誠が、太平洋戦争に際して軍部の要請で描かれた戦争画を巡って対談している。この二人の人選が良かった。 戦時中に軍部の要請で描かれた戦争画は、戦後ア…

早野透『田中角栄』を読む

早野透『田中角栄』(中公新書)を読む。新書とはいえ、厚さ400ページを超え、物理的にも内容からも力作だ。早野は朝日新聞の政治部記者だったが、田中角栄に接してその魅力に触れ、志願して田中の選挙区である新潟支局に転勤する。田中の後援団体越山会を取…

岡倉天心宅跡を見る

東京台東区谷中へ初めてのギャラリーを探しながら行ったら、ふいに岡倉天心宅跡があった。そこは小さな公園になっている。入口に東京都教育委員会が作った看板が立てられていた。 東京都指定旧跡 岡倉天心宅跡 旧前期日本美術院跡 所在地 台東区谷中五丁目7…

『ある都市のれきし 横浜:330年』を読む

先日紹介した万城目学・門井慶喜『ぼくらの近代建築デラックス!』(文春文庫)に、門井が横浜の街なみの歴史ではこの本が良いと薦めていた。 横浜の街なみの歴史に関しては『ある都市のれきし――横浜・330年』(北沢猛作、内山正画、福音館書店)がすばらし…

成田龍一『戦後史入門』を読む

成田龍一『戦後史入門』(河出文庫)を読む。とてもやさしく書かれている歴史書という印象。そのはずで、末尾に次のように書かれている。 本書は2013年8月に刊行された 『戦後史の考え方・学び方――歴史って何だろう?』 (「14歳の世渡り術」シリーズ)を増…

成田龍一『近現代日本史と歴史学』を読む

成田龍一『近現代日本史と歴史学』(中公新書)を読む。副題が「書き替えられてきた過去」とあり、近現代の日本史がどのように解釈されてきたかを、膨大な文献を読み解いて紹介している。 成田は、敗戦後再出発した歴史学研究は初め「社会経済史」をベースに…

銀座ニコンサロンの柴田れいこ写真展「届かぬ文:戦没者の妻たち」を見て

東京銀座のニコンサロンで柴田れいこ写真展「届かぬ文(ふみ):戦没者の妻たち」が開かれている(6月30日まで)。柴田は1948年岡山県生まれ、2005年に大阪芸術大学写真学科を卒業している。 ギャラリーのホームページに、本展に関する柴田れいこの言葉が掲…

日本橋の福徳神社が再興された

日本橋三越前に三井グループ系のコレドができ、その一帯の再開発に伴って古い神社が整備された。コレドの裏手に小さいが立派な神社が作られて、名前を福徳神社という。この福徳神社の由緒が石版に彫られていた。 当社伝来の稲荷森塚碑文によれば、9世紀後半…

網野善彦『日本の歴史をよみなおす(全)』を読む

網野善彦『日本の歴史をよみなおす(全)』(ちくま学芸文庫)を読む。「(全)」とあるのは、かつて筑摩書房から『日本の歴史をよみなおす』および『続・ 日本の歴史をよみなおす』として発行された2冊をまとめたものだから。 網野は為政者の歴史ではなく、…

『信濃が語る古代氏族と天皇』を読む

関裕二『信濃が語る古代氏族と天皇』(祥伝社新書)を読む。副題が「善光寺と諏訪大社の謎」。善光寺と諏訪大社の謎を中心に信濃(長野県)の古代史に迫っていく。とくに諏訪大社を巡る謎がおもしろかった。 諏訪大社には独特な信仰が残っている。縄文的な信…

唐澤太輔『南方熊楠』を読む

唐澤太輔『南方熊楠』(中公新書)を読む。ていねいに書かれた熊楠の伝記だ。熊楠は柳田国男と双璧をなす日本の民俗学の創始者でもあり、粘菌研究者としても一流で、在野でありながら昭和天皇へのご進講を務めている。 若くしてアメリカへ渡り、いくつかの学…

『辻征夫詩集』を読んで

谷川俊太郎 編『辻征夫詩集』(岩波文庫)を読む。名前は知っていたが、辻征夫の詩を読むのは初めてだった。カバーの袖に惹句が書かれている。それを引くと、 やさしくて、茫洋として、卑下もせず、自慢もしない――。話し言葉を巧みに使って書いた素直な言葉…

小松茂美『利休の死』を読む

小松茂美『利休の死』(中央公論社)を読む。小松は「平家納経」を研究した古筆学者。その世界では大御所として知られる。小松は利休の手紙とされる368点を精査し、また当時の利休を取り囲む人たちの消息=手紙を読み解き、本書を執筆した。 千利休の伝記で…

桑田忠親『千利休』を読む

桑田忠親『千利休』(中公新書)を読む。副題が「その生涯と芸術的業績」とある。あとがきに桑田は書く。 私は78歳の今日までに、千利休に関しては、著書も論文も、またかと思われるほどに書いたり、書かされたりしてきた。また、他人の書いたものにも残らず…

村井康彦『千利休』を読む

村井康彦『千利休』(NHKブックス)を読む。これを読んだのは先週読み終わった赤瀬川原平の『千利休』(岩波新書)が、赤瀬川曰く「 この本は資料としては何の価値もない」という、その通りのものだったので口直しをしたかったからだ。村井を選んだのは、む…

『誰も戦争を教えてくれなかった』を読む

古市憲寿『誰も戦争を教えてくれなかった』(講談社)を読む。1985年生まれの若い社会学者が、日本や海外の戦争博物館を訪ねて回るというユニークな本。ハワイのパールハーバーのアリゾナ・メモリアルから始まって、上海の南京大虐殺記念館を訪ね、広島の平…

藤森照信が語る諏訪の古代史

藤森照信が『タンポポの綿毛』(朝日新聞社)で諏訪の古代史について語っている。「敗戦の記憶」という章で。 藤森が生まれ育った長野県諏訪郡宮川村(現茅野市)高部に守矢家の屋敷があった。 村の立つ扇状地のやや上のほうに、集落を見晴らすようにしてジ…

御厨貴 編著『近現代日本を史料で読む』を読んで

御厨貴 編著『近現代日本を史料で読む』(中公新書)を読む。明治の元勲大久保利通や木戸孝允などから始まって、石橋湛山、鳩山一郎、佐藤榮作に至る、明治から昭和の戦後までの、歴史的に重要な人物たちの残した日記や記録を紹介している。 目次から拾うと…

半藤一利とこんにゃく稲荷

朝日新聞に半藤一利が「人生の贈りもの」と題するエッセイを連載している。簡単な自伝みたいなもので、記者が聞き書きをしているが、その第2回に生まれ育ったところを語っている(11月18日)。 ――半藤さんは1930年5月、東京・向島の生まれです 正確には東京…

『ヌードと愛国』を読む

池川玲子『ヌードと愛国』(講談社現代新書)を読む。標題から想像する内容とは違い、真面目な研究書だ。それもそのはずで、著者池川は若桑みどりに師事した日本近代女性史が専門の研究者なのだ。 本書は7つの章からなっている。章題とその副題を列挙すると…

『江戸の神社・お寺を歩く〔城西編〕』を読む

黒田涼『江戸の神社・お寺を歩く〔城西編〕』(祥伝社新書)を読む。同じ著者の『江戸の神社・お寺を歩く〔城東編〕』の続編。品川区から港区、目黒区、渋谷区、新宿区、文京区、豊島区、板橋区など東京の山の手地区を13の地域に分け、そこの630余りの寺社を…