歴史

太田博樹『遺伝人類学入門』を読む

太田博樹『遺伝人類学入門』(ちくま新書)を読む。副題が「チンギス・ハンのDNAは何を語るか」という興味深いもの。何年か前にチンギス・ハンの遺伝子が広くアジアからヨーロッパに拡がっているという説を読んだことを思い出した。モンゴル帝国がアジアを席…

白井聡『永続敗戦論』を読む

白井聡『永続敗戦論』(講談社α文庫)を読む。同じ著者の『国体論』の評判が良くて購入したが、前著である『永続敗戦論』を去年買ったのにまだ読んでなかったので、これから読んでみた。 日本は1945年8月15日にポツダム宣言を受諾して連合国に敗戦した。それ…

原武史『松本清張の「遺言」』を読む

原武史『松本清張の「遺言」』(文春文庫)を読む。日本政治思想史学者の原が、松本清張の晩年の作品『神々の乱心』と『昭和史発掘』を分析している。『神々の乱心』は未完に終わった小説だが、原は「天皇制と昭和史という二つの大きなテーマを見事に接合し…

河内春人『倭の五王』を読む

河内春人『倭の五王』(中公新書)を読む。倭の五王とは中国の史書『宋書』倭国伝に記された讃・珍・済・興・武を言う。当時5世紀に日本から中国の天子へ書を送った王たちだ。そのことは『日本書紀』や『古事記』に記載がなく、5人の王たちは日本のどの天皇…

中沢新一『アースダイバー 東京の聖地』を読む

中沢新一『アースダイバー 東京の聖地』(講談社)を読む。2005年に発行された前著『アースダイバー』は、現代の東京が縄文時代の地形と密接な関係を持っていることを解き明かしたものだった。その後『大阪アースダイバー』も発行されたが、これは読んでいな…

山本義隆『近代日本一五〇年』を読む

山本義隆『近代日本一五〇年』(岩波新書)を読む。山本は元東大全共闘代表で、その後駿台予備校で教師をしている。数年前に出版された『磁力と重力の発見』は各方面から絶賛されたが、何分全3巻と大著なので、手が出せないでいた。それが新書という形で出版…

高田里惠子『グロテスクな教養』を読む

高田里惠子『グロテスクな教養』(ちくま新書)を読む。「教養」はふつうプラスの価値観をまとっているが、ときにマイナスの価値観を込めて語られることもある。表紙裏の惹句から、 「教養とは何か」「教養にはどんな効用があるのか」――。大正教養主義から、…

おこげという植物

私が育った長野県の飯田地方は昆虫食のセンターでもあるが、「おこげ」という灌木の新芽をお浸しにして食べていた。春芽吹いた時、それを摘んでお浸しにする。ちょっとでも葉が大きくなると硬くなって食べられない。だから食べられるのはほんの短い期間だ。 …

古部族研究会 編『古諏訪の祭祀と氏族』を読む

古部族研究会 編『古諏訪の祭祀と氏族』(人間社文庫)を読む。先日紹介した「日本原初考」シリーズの2冊目にあたる。その1冊目は『古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究』だった。古代諏訪の原始信仰を研究し、古代日本の政治体制を探っている。 古部族研究会…

佐藤春夫『南方熊楠』を読む

佐藤春夫『南方熊楠』(河出文庫)を読む。南方は柳田国男と並ぶ民俗学の大御所だ。民俗学以外にも植物学や粘菌などの研究で名高い。同時に奇人変人でも類がないほどだった。佐藤は同じ和歌山県出身の南方を戦後間もなくの1952年に伝記にまとめている。 南方…

古部族研究会 編『古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究』を読む

古部族研究会 編『古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究』(人間社文庫)を読む。ミシャグジ信仰について書かれた本が出たなんて嬉しい。古代諏訪の信仰については中沢新一も藤森照信も書いていたし、今井野菊の本を読んだこともあった。古代諏訪に石神信仰があ…

西村京太郎『十五歳の戦争』を読む

西村京太郎『十五歳の戦争』(集英社新書)を読む。1930年生まれのミステリ作家。現在までに500冊の本を書いているというが、今回初めて読んだ。西村もノンフィクションは初めてのようだ。 昭和20年4月1日に西村はエリート将校養成機関「東京陸軍幼年学校」…

橋爪大三郎・大澤真幸『げんきな日本論』を読む

橋爪大三郎・大澤真幸『げんきな日本論』(講談社現代新書)を読む。二人の社会学者による日本の歴史に関する対談だが、古代史から明治維新直前までをテーマにしている。本書は3部に分かれ、はじまりの日本(古代史)、なかほどの日本(中世史)、たけなわの…

片山杜秀『国の死に方』を読む

片山杜秀『国の死に方』(新潮社新書)を読む。これがおもしろかった。片山は音楽評論の世界でも高い評価を受けていて、音楽に関する著書も多いが、もともとの専門は政治思想史の研究者なのだ。音楽評論では吉田秀和賞とサントリー学芸賞を受賞している。 本…

橋本治+橋爪大三郎『だめだし日本語論』を読む

橋本治+橋爪大三郎『だめだし日本語論』(太田出版)を読む。これがわくわくするほど面白かった。橋本治は小説の『桃尻娘』シリーズで人気を博した小説家。その後『枕草子』や『源氏物語』などの古典の現代語訳の仕事も定評がある。橋爪大三郎はきわめて有…

倉本一宏『戦争の古代日本史』を読む

倉本一宏『戦争の古代日本史』(講談社現代新書)を読む。磯田道史が毎日新聞で紹介していた(6月18日)。その書評の末尾。 本書は、現代の日本と朝鮮半島の複雑な関係の淵源を古代までさかのぼって丁寧に論じ、説明してくれる。古代からそこそこの大国であ…

池田嘉郎『ロシア革命』を読む

池田嘉郎『ロシア革命』(岩波新書)を読む。副題が「破局の8か月」とあり、類書と異なり2月革命から10月革命までの具体的な政治の動きをテーマにして、それを破局に至る過程として描いている。沼野充義の書評が毎日新聞に掲載された(2017年3月5日)。その…

呉座勇一『応仁の乱』を読む

呉座勇一『応仁の乱』(中公新書)を読む。昨年10月に発行されたが、またたくうちにベストセラーになり、もう30万部ほどは出ているのではなかったか。たとえ新書だとはいえ、どうしてこんなに硬い歴史の本がそんなに売れているのか。 大澤真幸が朝日新聞に書…

田中克彦『従軍慰安婦と靖国神社』を読む

田中克彦『従軍慰安婦と靖国神社』(KADOKAWA)を読む。田中はユニークな言語学者で、常識にとらわれない独自の意見を持っている。 私は従軍慰安婦について触れるのが億劫でこの話題にはあまり近づかなかった。細部がどうであれ、戦時中とはいえ若い娘たちが…

加藤陽子『とめられなかった戦争』を読む

加藤陽子『とめられなかった戦争』(文春文庫)を読む。加藤は 以前、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』を読んで大変感動した記憶があり、このブログにも紹介した。 本書は、2011年にNHK教育テレビで4回にわたって放送された内容を活字にしたものだ。…

埼玉県日高町の九万八千神社

先日、埼玉県日高町高麗本郷に住む友人を訪ねた。彼岸花で有名な巾着田の近くだ。友人の家の近くに小さな神社がある。以前から気になっていたが、九万八千神社というらしい。ネット上にこの神社に関する詳しい解説が載っていた。その「スネコタンパコの「夏…

深町英夫『孫文』を読む

深町英夫『孫文』(岩波新書)を読む。孫文のことは現代中国史でも東洋史でも必ず扱われ、何となく知っているような気がしていた。孫文は死後、中華民国の政権を掌握した中国国民党によって「国父」と尊称され、中華人民共和国を樹立した中国共産党によって…

松本直樹『神話で読みとく古代日本』を読む

松本直樹『神話で読みとく古代日本』(ちくま新書)を読む。『古事記』『日本書紀』を読みといて日本の古代史を再構築している。『古事記』に書かれていることと『日本書紀』に書かれていることをつき合わせ、さらに『出雲風土記』と併せて、その〈神話〉か…

『古代出雲を歩く』を読む

平野芳英『古代出雲を歩く』(岩波新書)を読む。平野は島根県八雲立つ風土記の丘勤務を経て荒神谷博物館に主席学芸員として勤務し、現在同博物館副館長とある。 題名のとおり現在の島根半島を通して古代の出雲を紹介している。平野は地元出身者で、島根半島…

倉本一宏『蘇我氏』を読む

倉本一宏『蘇我氏』(中公新書)を読む。副題が「古代豪族の興亡」となっている。継体天皇の次に立った欽明天皇の時代頃、蘇我稲目が登場、欽明王権を支えることで権力を握った。欽明に娘を嫁がせ、そこに生まれた用明天皇や崇峻天皇、推古天皇の外戚となる…

飯田市の焼肉屋に対する朝鮮労働者の影響

先に長野県飯田市の焼肉店の数が人口比で全国1との報道に関して、それは戦時中の平岡ダム建設で朝鮮人労働者が大勢連れてこられて、彼らの食習慣である焼肉がタレとともに飯田市に伝わったのだと書いた。 友人の原英章君がさらに資料を送ってくれた。彼は飯…

『武士の娘』を読んで

杉本鉞子著・大岩美代訳『武士の娘』(ちくま文庫)を読む。杉本鉞子は明治6年、越後長岡藩の家老の家に生まれ、武士の娘として厳格に育てられた。兄の友人と結婚してアメリカに渡り、2人の娘を出産して育てるが、帰国の途次夫を亡くし以後日本で暮らす。し…

長野県飯田市に焼肉屋が多いわけ

先ごろ、長野県飯田市が全国で一番焼肉屋が多い町として紹介された。人口1万人当たりの焼肉屋の数が、2位北海道北見市、3位三重県松阪市を抜いて飯田市が全国1位だという。飯田市ではコンビニの数より焼肉屋が多いそうだ。なぜ長野県の小さな町がトップなの…

吉村武彦『蘇我氏の古代』を読んで

吉村武彦『蘇我氏の古代』(岩波新書)を読む。蘇我氏が歴史に登場するのが蘇我稲目からで、宣化天皇の時代になる。大臣に就任している。宣化は継体の子にあたり、次の天皇が欽明になる。稲目は娘を欽明の妃にし、天皇の外戚の地位にあって、政治的影響力を…

『八月十五日の日記』を読む

永六輔 監修『八月十五日の日記』(講談社)を読む。正午にラジオで天皇の詔勅が放送され、ポツダム宣言を受け入れたことが発表された。その8月15日のほぼ100人の日記を集めたもの。日記の作者は大臣から軍人、政治家、作家、学者、俳優など多岐にわたってい…