松本直樹『神話で読みとく古代日本』を読む

 松本直樹『神話で読みとく古代日本』(ちくま新書)を読む。『古事記』『日本書紀』を読みといて日本の古代史を再構築している。『古事記』に書かれていることと『日本書紀』に書かれていることをつき合わせ、さらに『出雲風土記』と併せて、その〈神話〉から読み取れることを探っている。
 記紀に書かれている神話をていねいにつき合わせ、矛盾点を分析する。教えられることが多かった。

〈建国神話〉がオホクニヌシを作り出した目的は、ひとつには皇祖に国土全体の支配権を譲り渡す神を用意することにあったと思われる。つまり確かな国主を一人置くことによって、確かに国の全部が皇祖に謙譲されたと言うためである。オホクニヌシが何の謂われもない神であったならば、オホクニヌシから譲られた権利さえ、根拠がなくなってしまうだろう。

 だが、こう書かれるとやはりもっと素直になって、まず出雲王朝があり、それを奪って近畿王朝ができたのだと書けば、単純で分かりやすいだろう。
 実際は、まず出雲王朝が存在し、それを倒して九州王朝が生まれ、白村江の戦いに唐に敗れて九州王朝が没落し、代わって近畿王朝が誕生したというのが正しい歴史だろう。そのことを前提にしない日本古代史は砂上の楼閣にしか過ぎない。今年亡くなった古田武彦の古代史論はそう言っている。古田がそのことを主張したのはもう40年近く前ではなかったか。
 だから、本書を読みながら、細部がていねいにしっかり書かれているにも関わらず、虚しい思いを禁じ得なかった。