平野芳英『古代出雲を歩く』(岩波新書)を読む。平野は島根県八雲立つ風土記の丘勤務を経て荒神谷博物館に主席学芸員として勤務し、現在同博物館副館長とある。
題名のとおり現在の島根半島を通して古代の出雲を紹介している。平野は地元出身者で、島根半島を4つの地域に分け、それぞれの地域をていねいに歩いて古代遺跡や神社などをたどっていく。生半可な古代史論などは封印している。作家の旧跡や小説の舞台を訪ね歩くことを文学散歩というが、それに倣って古代史散歩と言えばいいかもしれない。
具体的な土地の遺跡や地形を示しながら、古代出雲の姿を再現してみせてくれる。とても気持ちの良い読書であり、いつか機会があれば本書を手に島根半島を歩いてみたいと思った。
スサノオを祀る韓竈神社の本社の祠、窟の中にある素朴な祠の写真がなにか魅力的だが、社に向かう狭く短い道からのぞきこむ谷の深さに恐ろしさを感じるとある。怖いじゃん。
出雲において大社と名がつくのは熊野大社と出雲大社だけだという、その熊野大社が出雲国一宮だったという。出雲大社ではなかった。だから熊野の地には遺跡や古社が多い。
最後に多数の銅剣、銅鐸、銅矛が出土した荒神谷遺跡が紹介される。平野はその発掘に最初から関わっていた。そのこともあって、荒神谷博物館が作られた時、学芸員として参加したのだった。
ときに、もう一歩踏み込んで書いてくれたらとも思ったが、「古代出雲を歩く」ことに徹して、必要以上には触れないでいるその潔さが印象に残った。
- 作者: 平野芳英
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/07/21
- メディア: 新書
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