平松洋子の『野蛮な読書』(集英社文庫)を読む。雑誌『すばる』にほぼ毎月連載したもので、本の紹介をエッセイの形で書いている。連載1回目はちょっとリキが入っている感じだったが、2回目以降は落ち着いて書いている。新刊書ではなく、気になった本を取り上げて、それを軸にしたエッセイに仕立てている。
エロ作家というか官能小説家の宇野鴻一郎私論という章では、宇野をずいぶん高く評価している。昭和37年「鯨神」で芥川賞受賞、しかしその後ポルノ小説へ転身する。数百冊の著書があるようだが、単行本は1冊も読んだことがない。それでも『日刊ゲンダイ』やら週刊誌などに連載していたのを拾い読みくらいはしているから、なんとなく知っている。女主人公の一人称でつづられる官能小説。平松も宇野の小説の冒頭1行目を紹介している。
「あたし、レイコ。人妻看護婦なんです」
「課長さんたら、ひどいんです」
「あたし、濡れるんです」
映画スターの池部良に対する高評価も驚いた。池部って、単に昔頑張った二枚目くずれだって思っていたから。そういえば、池部もよく見たことがない。
獅子文六も評価が高い。この作家も読んだことがなかった。先日見た『二階の女』という芝居は原作が獅子文六だったが。こんな風に一世を風靡してその後忘れられていく作家が時々いる。志賀直哉が昔小説の神様扱いされていたことを今どきの若者は知らないだろう。世界10大小説に志賀直哉の『暗夜行路』を挙げていた日本の評論家もいたほどだったのに。
沢村貞子の日記文学は読んでみたい気がする。
第3章「クリスティーネの眼差し」で取り上げられているのは、深瀬昌久の写真集『洋子』と『鴉』であり、古屋誠一の同じく『メモワール』であり、ロラン・バルトの『明るい部屋 写真についての覚書』などだ。これらは昔みな読んだ(見た?)が、どれも素晴らしい選択だ。
深瀬は長い間病床にあって、昨年亡くなったのじゃなかったか。新宿のゴールデン街の階段から酔って落ちてそれ以来寝たきりだった。
- 作者: 平松洋子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2014/10/17
- メディア: 文庫
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