井上ひさし『盗む男』を読む

 井上ひさし『盗む男』(中公文庫)を読む。副題が「ミステリ短篇選」で、7篇のミステリと3篇のエッセイを収めている。最初の「ドラ王女の失踪」を読み始めて、このかったるい会話は何なんだと思った。これは若書きだろうかと思ったら、40歳くらいの時の作品だった。井上ひさしは一流の劇作家だ。芝居において会話こそ主になるはずだ。それがどうしてこんなにひどいのか。これって手を抜いているのかと思った。何と言っても晩年の井上ひさしの芝居『父と暮らせば』や『少年口伝隊一九四五』の傑作ぶりを知っている。

 もしかして、本書の前にスタニスワフ・レムの「捜査」を読んだので、それと比べてしまったのだろうか。

 さらにミステリとしてもイマイチの感を否めない。いずれにしてもこれが井上ひさしとは残念だった。

 井上ひさしは若い頃浅草ロックのストリップ小屋でコントの作者をしていた。その頃の体験を「盗む男」で書いている。そんな世界に長くいたというのは、やはり褒められたことではなかったと思う。私も若い頃、テキヤまがいの仕事やキャバレーのボーイや呼び込み、飯場に入って土方をしていたり、立ちん坊やら何やらその日暮らしの仕事をしていたことがあった。そのことについて、カミさんからあんたは勉強しなければいけない時にあんなことをしていて、と批判されたことがあった。いずれも褒められたことではなかったと、少々だが反省はしている。