2017-01-01から1年間の記事一覧

三木成夫『内臓とこころ』を読む

三木成夫『内臓とこころ』(河出文庫)を読む。35年ほど前に三木が保育園で行った講演を本にしたものの文庫化。単行本は1982年に出版されており、それが三木の処女作だったという。すぐ後に名著と評価の高い『胎児の世界』(中公新書)が出版されており、そ…

多摩美術大学美術館で宮崎進展を見る

もう10年も前になるが、東京日本橋にギャラリー汲美という日本の現代美術を扱っている企画画廊があった。画廊主の磯良さんが亡くなって画廊も閉廊した。磯良さんははじめコレクターだった。よく通っていた西新宿にあった杏美画廊の信藤さんに将来画廊を開き…

千葉聡『歌うカタツムリ』を読む

千葉聡『歌うカタツムリ』(岩波科学ライブラリー)を読む。カタツムリという地味な生物を研究対象としている進化論の本だ。標題の所以は200年前ハワイの古い住民たちがカタツムリが歌うと信じていたことによる。19世紀の半ばハワイでのカタツムリの研究を通…

東京オペラシティアートギャラリーの荒木経惟展「写狂老人A」を見る

東京オペラシティアートギャラリーの荒木経惟展「写狂老人A」が開かれている(9月3日まで)。写狂老人Aとは葛飾北斎の晩年の号「画狂老人卍」に倣って付けた由。 最初の部屋は「大光画」と題されていて、人妻のヌード写真が圧倒する量で展示されている。弁証…

久保田万太郎『浅草風土記』を読む

久保田万太郎『浅草風土記』(中公文庫)を読む。浅草をめぐるエッセイを集めたもの。久保田は明治22年東京浅草生まれ、昭和38年に亡くなっている。小説のほか戯曲を書き、岸田國士らとともに文学座を創立した。 「雷門以北」が昭和2年の作。そこで10年前の…

コバヤシ画廊の太田三郎展「POST WAR 72世紀の遺書」を見る

東京銀座のコバヤシ画廊で太田三郎展「POST WAR 72世紀の遺書」が開かれている(8月19日まで)。太田は1950年山形県生まれ。1971年に鶴岡工業高等専門学校機械工学科を卒業している。1980年よりシロタ画廊をはじめ個展を多数開いている。 今回は「POST WAR …

行方昭夫 編訳『たいした問題じゃないが』を読む

行方昭夫 編訳『たいした問題じゃないが』(岩波文庫)を読む。副題が「イギリス・コラム傑作選」というもの。編訳者の行方が解説で「20世紀初頭に活躍したガードナー、ルーカス、リンド、ミルンという、4人のイギリスの名エッセイストの選集である」と書い…

猛毒の植物キョウチクトウとキダチチョウセンアサガオ

『一冊の本』8月号(朝日新聞出版)に「世界の毒草 キョウチクトウ」というエッセイが載っていた。著者は植松黎。キョウチクトウが有毒植物だということは知っていたが詳しくは知らなかった。それによると、キョウチクトウの主な毒成分はオレアンドリンで、…

木下直之『股間若衆』を読む

木下直之『股間若衆』(新潮社)を読む。副題が「男の裸は芸術か」というもの。2010年と2011年に『芸術新潮』に掲載された。街中に設置されている男性ヌード彫刻の股間の表現に注目したことから木下の調査研究が始まる。これは東京赤羽駅前に立っている川崎…

吉行淳之介『私の文学放浪』と『私の東京物語』を読む

吉行淳之介『私の文学放浪』(講談社文芸文庫)と『私の東京物語』(文春文庫)を読む。『〜文学放浪』は何度目か、『〜東京物語』は初めて読んだ。初めてだったとはいえ、ほとんどが読んだことのあるものばかりだった。 『〜文学放浪』は文字通り、吉行の文…

東京都写真美術館で「荒木経惟 センチメンタルな旅 1971-2017-」を見る

恵比寿の東京都写真美術館で「荒木経惟 センチメンタルな旅 1971-2017-」が開かれている(9月24日まで)。 展覧会のちらしから、 本展は、その膨大な作品群から、妻、「陽子」というテーマに焦点をあてた展覧会です。荒木自らが「陽子によって写真家になった…

東京都写真美術館で「コミュニケーションと孤独」を見る

恵比寿の東京都写真美術館でTOPコレクション「コミュニケーションと孤独」が開かれている(9月18日まで)。TOPコレクションは東京都写真美術館の収蔵品で構成された写真展で、今回展示されている写真家は、菊地智子、大塚千野、屋代敏博、中村ハルコ、やなぎ…

大沢文夫『「生きものらしさ」をもとめて』を読む

大沢文夫『「生きものらしさ」をもとめて』(藤原書店)を読む。生物物理が専門の名古屋大学・大阪大学名誉教授の生命論。毎日新聞に高樹のぶ子の書評が載っていた(7月9日)。 この本で一貫して著者が言いたかったことは「人間はゾウリムシと同じだ」とい…

村上春樹『女のいない男たち』を読む

村上春樹『女のいない男たち』(文春文庫)を読む。とても良かった。村上春樹の長編は異世界を描くことが多いしあまり触手が動かない。けど短篇はとてもおもしろい。最近、川上美映子との対談でぼくは小説がうまいんだと語っていたらしいがその通りだと思う…

ポルトリブレで豊田紀雄コレクション展が始まった

老境新宿のフリーアートスペース ポルトリブレで豊田紀雄コレクション展が始まった(8月7日まで)。さほど広いとは言えない画廊スペースに小品とはいえ、100点を超える作品が並んでいる。豊田さんは画家にしてコレクター、多いときは500点以上を所有してい…

加藤典洋『敗者の想像力』を読む

加藤典洋『敗者の想像力』(集英社新書)を読む。これがとても良かった。初めに敗戦後について語る。小津安二郎の映画が敗れることの経験の深さを表現している。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』は、国家が原子爆弾ではなくクローン技術を発明する…

酒井忠康『ある日の彫刻家』を読む

酒井忠康『ある日の彫刻家』(未知谷)を読む。世田谷美術館長の酒井が折に触れてつづった彫刻家に関するエッセイをまとめたもの。姉妹書に『ある日の画家』(未知谷)があるが、それに比べると見劣りがするのはなぜだろう。世田谷美術館で開かれた彫刻展に…

ギャラリーf分の1の笹井祐子展を見る

東京お茶の水のギャラリーf分の1で笹井祐子展が開かれている(7月29日まで)。笹井は1966年生まれ、日大芸術学部研究所版画コースを卒業している。最初の個展は1989年にJCBギャラリーで、次いで1991年ギャラリー21+葉で行っている。 笹井は元来版画家だ…

ギャラリーQの高嶋英男展を見る

月曜日から「画廊からの発言−新世代への視点2017」が始まった(8月5日まで)。ギャラリーQでは高嶋英男を取り上げている。高嶋は1989年東京都生まれ。2012年に多摩美術大学大学院美術研究科博士課程前期課程工芸専攻を修了した後、2014年に東京芸術大学大学…

ギャラリー川船の山本麻世展「川底でひるね」を見る

今日から「画廊からの発言−新世代への視点2017」が始まった(8月5日まで)。ギャラリー川船では山本麻世を取り上げている。山本は1980年東京都生まれ、2005年に多摩美術大学大学院美術研究科工芸専攻陶コース博士前期課程を修了している。ついで2008年にオ…

明日から「画廊からの発言−新世代への視点2017」が始まる

明日から始まる「画廊からの発言−新世代への視点2017」は、恒例の10軒の画廊が推薦する40歳以下の若手作家10人の個展だ。現代美術の代表的な貸画廊が選んだ作家たちだから見逃せない重要な企画で、7月24日から2週間開かれる(8月5日まで)。 10の画廊とそ…

ジャコメッティ『エクリ』を読んで

ジャコメッティ『エクリ』(みすず書房)を読む。ジャコメッティが書いた文章を集めたもので、雑誌等に発表したものから、メモ、断章、そして対談を収めている。全部で450ページもあるが、メモ、断章が200ページ近くを占めている。既発表の文章からこのメモ…

「なびす画廊最後の十日 展」が始まった

東京銀座のなびす画廊が「なびす画廊最後の十日 展」を開いている(7月29日まで)。DMの挨拶より、 当なびす画廊は今回の展観をもって閉廊することになりました。 画廊の開設自体は50年代に遡りますが、1985年、新ビル3階の現在地で再発足したのを機に、創業…

紅白図屏風と梅の木

田舎へ行って墓の掃除をしてきた。墓の隣がずいぶん前に収穫放棄された梅林だ。私の田舎は竜狭小梅という小粒の梅の品種が中心で、梅干しではなく梅漬けにされている。この梅林もその小梅なのだが、種の先端が尖っている。それが嫌われて現在は市場価値がな…

国立新美術館のジャコメッティ展を見る

東京六本木の国立新美術館でジャコメッティ展が開かれている(9月4日まで)。細い棒のような人物彫刻のジャコメッティ。南フランスのマーグ財団のコレクションを中心に、初期から晩年まで、彫刻、油彩、素描、版画など130点以上が展示されている。 初期のキ…

銀座メゾンエルメスフォーラムのエマニュエル・ソーニエ展を見る

東京銀座の銀座メゾンエルメスフォーラムでエマニュエル・ソーニエ展「セロニアス・モンクに捧ぐ」が始まった(10月31日まで)。これがとても良かった。 エマニュエル・ソーニエは1952年、フランス、パリ生まれ。ベルギーのブリュッセルほか、フランス各地の…

ジョージ・オーウェル『動物農場』を読む

ジョージ・オーウェル『動物農場』(ハヤカワepi文庫)を読む。山形浩生の新訳とある。ロシア革命を徹底して戯画化している。レーニンがブタのメイジャー、トロツキーがブタのスノーボール、スターリンがブタのナポレオンとなっている。 訳者山形があとがき…

7月15日は山本弘の祥月命日

今日7月15日は山本弘の37回目の祥月命日だ。1981年のこの日亡くなった。アル中治療のため1年以上入院していた飯田市営病院を退院して100日ほどだった。家族を実家へ帰し、ひとりで自死した。51歳だった。 山本弘は15歳で終戦を経験してから、なぜか自殺願…

長谷川祐子『破壊しに、と彼女たちは言う』を読む

長谷川祐子『破壊しに、と彼女たちは言う』(東京藝術大学出版会)を読む。副題が「柔らかに境界を横断する女性アーティストたち」で、20人以上の女性アーティストたちを取り上げている。長谷川が機会あるごとに書いたレビューをまとめたものだが、古いもの…

ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションの「千一億光年トンネル」を見る

東京日本橋蛎殻町のミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションで「千一億光年トンネル」展が開かれている(8月6日まで)。参加作家は浜口陽三をはじめ、奥村綱雄、ネルホル、水戸部七絵。浜口については省くとして、まず奥村から。 奥村は1962年三重県出身。1986年…