ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションの「千一億光年トンネル」を見る

 東京日本橋蛎殻町のミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションで「千一億光年トンネル」展が開かれている(8月6日まで)。参加作家は浜口陽三をはじめ、奥村綱雄、ネルホル、水戸部七絵。浜口については省くとして、まず奥村から。
 奥村は1962年三重県出身。1986年金沢美術工芸大学商業デザイン科を卒業している。1993年にギャラリーNWハウスで初個展。1996年には今回の展示につながる「夜警の刺繍」を藍画廊で開いている。この展示は印象深くまだ憶えている。美術館のパンフレットのテキストから、

 「夜警の刺繍」は、アウトサイダーを標榜する美術家の奥村綱雄が1995年から制作をはじめ、断続的に発表している作品です。
 あえてビルの警備員になり、夜の守衛室に一人常駐し、その待機時間を埋めるべく針を動かした刺繍は、密集した色のひとつひとうが針の跡で、作品1点を仕上げるのに1年以上をかけています。この驚異的な密度の刺繍は、これまでに15点制作され、本展ではその中の7点を展示します。4点は近年制作の未発表作品です。・・・




 奥村は小さな布に1000時間以上もの作業時間をかたむけるという。パンフレットには「これは膨大な時間の結晶か、あるいは前衛演劇なのか」と書かれている。作品タイトルはブックカバーとある。一人の人間の膨大な人生を置き換えたブックカバーとは! だが確かにほとんどの人間の人生はこのブックカバー以上の価値があるとは言えないかもしれない。
 ネルホル(Nerhol)は田中義久と飯田竜太のアートデュオ。田中は1980年、静岡県浜松市出身、2004年に武蔵野美術大学空間演出デザイン科卒業。飯田は1981年、静岡県沼津市出身、2014年、東京藝術大学大学院美術研究家先端芸術表現専攻を終了している。美術館のパンフレットから、

 代表作であるポートレイト作品は、コマ送りのように撮影した連続写真を束にして積み重ね、カッターでドローイングを描くように1枚ずつ彫り込んで制作されます。撮影時、モデルは静止したつもりでも無意識に身じろぎします。それが1枚1枚の写真にズレを生み、「時間制をもったメディウム」として働きます。その痕跡を残しつつ新たな図像が繋がっていく様は、「忘却されつつある記憶や想起のプロセス」の連続性により表層化され、可視化されうる物質敵痕跡としての記憶を描きだすのです。(……)
 「multiple—roadside tree」は、街路樹を少しずつ輪切りにして連続した写真を時系列に印刷し、紙束にしたものを素材にしたシリーズです。写真撮影のもつ自動性と、街路樹として植えられた木の「半自動的な成長」を結び付け、刻むことによって生まれる図像は「反復によって固有の一回性を喪った自然の情景を作り出し」ます。・・・





 ネルホルの作品の制作方法がイマイチよく分からない。私のカボチャ頭のせいです。
 水戸部は神奈川県出身。2011年に名古屋造形芸術大学造形学部美術学科洋画コースを修了している。2012年に3331アーツ千代田で初個展。美術館のパンフレットから、

 水戸部七絵は、絵具を豪快に塗り重ねて描く若手の油彩画家です。時には大きな絵具を一日で100本も使用します。現在の制作のテーマは「匿名の顔、いわば顔そのもののイメージ」です。あくまで平面作品として制作していますが、作品は絵具が火山のように盛り上がり、圧倒的な密度と物質感を持ちます。(中略)
 今回の新作にも数百本の絵具を使いました。正面から観賞するするという絵画の概念も覆し、真横からでも、真下からでも、様々な角度から観てもらうことを目的とした多面的な作品です。






 水戸部の作品の素晴らしさが私にはよく分からなかった。
 いずれも過剰な時間や物質の堆積を示しているといえばいいのだろうか。ここでも弁証法が連想される。過剰なものは性格や意味を変えるのだと。おもしろい企画だった。
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「千一億光年トンネル」
2017年5月20日(土)―8月6日(日)
11:00−17:00(土日祝10:00−17:0)
休館日:月曜日(7/17は開館)、7/9、7/18)
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ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション
東京都中央区日本橋蛎殻町1-35-7
電話03-3665-0251
http://www.yamasa.com/musee/