2017-01-01から1年間の記事一覧

小林信彦『私の東京地図』を読む

小林信彦『私の東京地図』(ちくま文庫)を読む。小林信彦は東京都中央区東日本橋で生まれた。それは現在の地名で、1971年に地名が変更される前は両国と言った。隅田川を挟んだ今の両国は東両国だった。役人は地名の成り立ちを知らないからわけのわからぬ町…

片山杜秀『国の死に方』を読む

片山杜秀『国の死に方』(新潮社新書)を読む。これがおもしろかった。片山は音楽評論の世界でも高い評価を受けていて、音楽に関する著書も多いが、もともとの専門は政治思想史の研究者なのだ。音楽評論では吉田秀和賞とサントリー学芸賞を受賞している。 本…

橋本治+橋爪大三郎『だめだし日本語論』を読む

橋本治+橋爪大三郎『だめだし日本語論』(太田出版)を読む。これがわくわくするほど面白かった。橋本治は小説の『桃尻娘』シリーズで人気を博した小説家。その後『枕草子』や『源氏物語』などの古典の現代語訳の仕事も定評がある。橋爪大三郎はきわめて有…

杉森久英『滝田樗陰』を読む

杉森久英『滝田樗陰』(中公文庫)を読む。副題が「『中央公論』名編集者の生涯」というもの。滝田樗陰が『中央公論』のアルバイト編集者になったのは明治37年ごろだった。当時の印刷部数はたった1,000部で、寄贈が300部、販売部数が300部で、廃刊寸前だった…

Art Mallの「漱石にささげるアート展」を見る

東京日本橋三越前のギャラリーArt Mallで「漱石にささげるアート展」が開かれている(9月22日まで)。夏目漱石生誕150周年で、自宅書斎や客間などを再現した施設「新宿区立漱石山房記念館」が9月24日に新宿区にオープンすることになり、それに合わせて漱石も…

うしお画廊の大沢昌助展を見る

東京銀座のうしお画廊で大沢昌助展が開かれている(9月22日まで)。DMはがきに息子さんの大沢泰夫が書いている。 牛尾さん主催の三回目の昌助展です。 今回は水彩、版画等、紙の作品を主に、油彩画を数点加えました。ちなみに今年は昌助が逝って20年。生前、…

ギャラリー川船で浜田浄展を見る

東京京橋のギャラリー川船で浜田浄展が開かれている(9月16日まで)。浜田は1937年高知県生まれ、1961年多摩美術大学油科を卒業している。1964年、東京杉並区のおぎくぼ画廊で初個展、以来数多くの個展を開いている。2015年には練馬区立美術館で回顧展が開催…

小林画廊の秋山泉展を見る

東京銀座の小林画廊で秋山泉展が開かれている(9月16日まで)。秋山は1982年山梨県甲府市生まれ、2007年に東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業し、2009年に同大学大学院美術研究科絵画専攻を修了している。 2009年から小林画廊で個展を繰り返し、山梨…

牟礼慶子『鮎川信夫 路上のたましい』を読む

牟礼慶子『鮎川信夫 路上のたましい』(思潮社)を読む。もと「荒地」の仲間であり、鮎川から直接詩の手ほどきを受けた詩人による鮎川信夫の伝記。鮎川の生前親しくつきあってもいた。そのため、ほとんど自己を語らなかった鮎川の生活を紹介してくれている。…

「引込線2017」を見る

東京所沢市の旧所沢市立学校給食センターで「引込線2017」が開かれている(9月24日まで)。本展はもともと2008年に「所沢ビエンナーレ美術展〈引込線〉」として始まったが、その後「引込線」と名前を変えて今回で6回目になるという。今回のちらしに次のよう…

鈴木紀之『すごい進化』を読む

鈴木紀之『すごい進化』(中公新書)を読む。“「一見すると不合理」の謎を解く”というのが副題。著者は昆虫学者なので、昆虫の事例がたくさん紹介される。いずれもとても興味深い。 塚谷裕一が読売新聞に書評を書いている(7月16日)。 性の進化の問題とは…

佐々木幹郎『中原中也』を読む

佐々木幹郎『中原中也』(岩波新書)を読む。中也論の最良の1冊だろう。佐々木は詩人であって、『新編中原中也全集』(角川書店)の責任編集委員なのだ。 佐々木は中原中也全集の編集を通じて、中原の詩の推敲過程をじっくり研究する。たとえば「朝の歌」を…

ギャラリイKのこばやしゆうさく展「生・痕跡としての版」を見る

東京京橋のギャラリイKでこばやしゆうさく展が開かれている(9月9日まで)。こばやしは1993年山形県生まれ。出身校を聞きそびれてしまったが、2016年「東北芸術工科大学修了展」瀬島賞受賞とあった。今回が初個展となる。 画廊の空間いっぱいに紐が張り巡ら…

鈴木貴博『アマゾンのロングテールは、二度笑う』を読んで

鈴木貴博『アマゾンのロングテールは、二度笑う』(講談社)を読む。副題が「50年勝ち残る会社をつくる8つの戦略」というもの。副題のとおり経営戦略の本だ。発行が2006年10月と古い。古い経営戦略の本で、しかも経営とは私に最も遠い世界だ。なぜ読むのか?…

ギャラリー7℃の作間敏宏展「治癒」を見る

東京中目黒のギャラリー7℃で作間敏宏展「治癒」が開かれている(9月10日まで)。ギャラリーへ足を踏み入れると左手の壁と正面の壁に無数の白黒写真が吊り下げられている。会場にいたスタッフに聞くと1,000枚近くあるという。いずれも暗闇から人がぼんやり…

加藤耕一『時がつくる建築』を読む

加藤耕一『時がつくる建築』(東京大学出版会)を読む。副題が「リノベーションの西洋建築史」とある。本書について、松原隆一郎が毎日新聞の書評欄で紹介している(6月18日)。それを要約しつつ簡単に紹介する。 著者は西洋建築史を古代までさかのぼり、再…

銀座K'sギャラリーの田中みづほ展を見る

東京銀座の銀座K'sギャラリーで田中みづほ展が開かれている(9月2日まで)。田中ははじめキルト作家として出発し、2003年から美術作家に転向したと画廊の壁に貼られた簡単な略歴にある。フランスの「ル・サロン展」や「サロン・ドートンヌ」に出品していた…

ギャラリーなつかの吉田収展を見る

東京京橋のギャラリーなつかで吉田収展が開かれている(9月9日まで)。吉田は1960年鳥取県生まれ、1985年武蔵野美術大学を卒業している。1985年かねこ・あーとギャラリーで初個展、以来ルナミ画廊、ときわ画廊、トキ・アートスペースなどで個展を繰り返して…

五十嵐太郎『日本の建築家はなぜ世界で愛されるのか』を読んで

五十嵐太郎『日本の建築家はなぜ世界で愛されるのか』(PHP新書)を読む。タイトルのやや胡散臭いのに反してとても面白かった。 まず「アメリカで学んだモダニズム」として、槙文彦と谷口吉生を紹介し、「メタボリズムを世界に売り出した」黒川紀章、「建築…

岡本勝人『「生きよ」という声 鮎川信夫のモダニズム』を読む

岡本勝人『「生きよ」という声 鮎川信夫のモダニズム』(左右社)を読む。鮎川の詩を中心とした作家論。岡本はそれを吉本隆明との交渉史を中心にして書く。ほかに「荒地」の仲間たちの北村太郎、黒田三郎、田村隆一、加島祥造、石原吉郎らが登場する。また鮎…

光嶋裕介『建築という対話』を読む

光嶋裕介『建築という対話』(ちくまプリマ―新書)を読む。副題が「僕はこうして家をつくる」とあり、今年37歳の若い建築家の自叙伝だ。父の転勤に伴って、アメリカで生まれて育ち、いったん日本に帰り、また父の転勤で中学からカナダへ行く。高校は早稲田大…

日本橋高島屋で沢田教一写真展を見る

東京日本橋高島屋の8階ホールで沢田教一写真展「その視線の先に」が開かれている(8月28日まで)。同展のちらしから、 1965年からベトナム戦争で米軍に同行取材し、最前線で激しい戦闘や兵士の表情など数多く写真に収めた写真家、沢田教一(1636−70)。輝…

木村資生『生物進化を考える』を読む

木村資生『生物進化を考える』(岩波新書)をやっと読む。分子進化の中立説を説いた進化論の大御所の本をようやく読んだ。発行されてから29年も経つ。評価の高い本だが、いままで敬遠してきた。ダーウィンの自然淘汰論やその後の総合説が気に入らなかったし…

「現代詩読本」特装版『さよなら 鮎川信夫』を読む

「現代詩読本」特装版『さよなら 鮎川信夫』(思潮社)を読む。鮎川信夫は1986年10月に自宅で倒れて亡くなった。66歳だった。『現代詩読本』に追悼号が組まれ、50人以上が寄稿した。さらに鮎川の詩から代表詩が3人(北村太郎、長谷川龍生、北川透)によって6…

ギャラリー58の松見知明展を見る

東京銀座のギャラリー58で松見知明展が開かれている(8月26日まで)。松見は1984年、福井県生まれ。2010年に福井大学教育地域科学部美術教育サブコースを卒業し、2012年に同大学大学院教科教育専修美術専攻を修了している。初個展は2011年にこのギャラリー58…

今野真二『かなづかいの歴史』を読む

今野真二『かなづかいの歴史』(中公新書)を読む。目次を見ると、「仮名の成立とかなづかい」「平仮名で日本語を書く」「片仮名で日本語を書く」「中世から近世にかけてのかなづかい」「明治期のかなづかい」「『現代仮名遣い』再評価」となっている。 本書…

野見山暁治画文集『目に見えるもの』を読む

野見山暁治画文集『目に見えるもの』(求龍堂)を読む。野見山の絵とその文章というか断章を組み合わせたもの。口絵の写真は鬼海弘雄が撮った野見山の肖像写真。 その一部を・・・ オンナに触れる夢は繰り返し見つづけた。今も見る。欲情するものはとっくに…

石原吉郎の詩集『サンチョ・パンサの帰還』のドン・キホーテとは誰か

現在多摩美術大学美術館で宮崎進展が開かれている。それに関連して宮崎進に関するシンポジウムが行われた。メインパネラーである詩人の高良留美子が、宮崎進同様シベリアに抑留されていた詩人石原吉郎に触れて、石原吉郎の処女詩集が『サンチョ・パンサの帰…

倉本一宏『戦争の古代日本史』を読む

倉本一宏『戦争の古代日本史』(講談社現代新書)を読む。磯田道史が毎日新聞で紹介していた(6月18日)。その書評の末尾。 本書は、現代の日本と朝鮮半島の複雑な関係の淵源を古代までさかのぼって丁寧に論じ、説明してくれる。古代からそこそこの大国であ…

埼玉県立近代美術館の遠藤利克展「聖性の考古学」を見る

埼玉県立近代美術館で遠藤利克展「聖性の考古学」が開かれている(8月31日まで)。遠藤は1950年生まれ、これまでヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタなどの国際的な舞台で活躍してきた。作品は大きな木を使い、加工したあとで焼いて黒く焦がしている。と…